しまんちゅシネマ

映画ノート

スローター・ハウス5


1972(米)
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
出演:マイケル・サックス/ユージン・ロッシュ/ロン・リーブマン/シャロン・ガンス/ヴァレリー・ペリン/ジョン・デナー/ペリー・キング
■感想
カンヌ特集 7本目!
明日に向かって撃て』『スティング』のジョージ・ロイ・ヒル監督の
時空間を移動し生きた男の体験記を描くSFドラマ。
カンヌで審査員賞を獲得しています。
これまた好きな作品でした~。

冒頭初老の主人公ビリーは、タイプライターに向かい、自分の悩みを綴ります。
なんと彼は自分の意思に関係なく、過去や未来を行き来してしまうんです。
タイムトラベルの方法としては『バタフライ・エフェクト』に似てるかな。

ビリーはある瞬間にいきなり移動してしまうんですが
それが人生の再現であり、過去や未来の事実を変えようとする類のものではありません。
楽しい新婚生活を過ごしているかと思えば、次の瞬間はドイツ兵の捕虜として囚われの身だったり。

穏やかながら、どこか哀愁を秘めた微笑をたたえるビリー
何度も時空を移動する彼は、捕虜仲間として親しくなった同士がどう死ぬのか
はたまた自分がいつどう死ぬのかも知っているんですね。
グレてた息子が入隊して父に誇りを持って欲しくてと挨拶に来るシーンでも
ビリーが寂しい表情で息子を見つめるのは、彼の行く末を知っていたからかも・・
それでも彼は息子を止めないし、何も言わない。
彼は運命をありのままに受け止めるんです。

映画の中でいくつかの生と死が描かれているのも印象的です。
息子の誕生、妻や仲間の死、ドレスデン空爆での多くの子供たちの無残な死
小さかった愛犬も家族とともに年を重ね・・・
終盤、ビリーが優しく彼を抱えあげる姿に、人生をともにしてきた愛犬への慈しみが感じられました。
 
死は誰にも訪れるもの。切なくはあるけれど、それが人生。
そして人生には楽しいこともいっぱいあるんだよと教えてくれます。
でも、戦争で死ぬのは本当に悲しい。
ドレスデンで死んでいった子供たちにも、もっともっと楽しい人生があったはずなのに
タイトルに敢えて捕虜が収容されたスローターハウス(屠畜場)とつけていることからも
この映画は戦争の愚かさ(ドレスデン空爆の事実)も伝えたかったのでしょうね。

あっという間に時空間を移動していたり、しまいには宇宙のどこかの星にまで飛んでしまうところなど
奇想天外とも言えるのだけど、グレン・グールドゴールドベルク変奏曲等の音楽が美しく使われ
静かで物悲しく、なんともいえない味わいのある映画でした。