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映画ノート

【映画】おみおくりの作法

 
おみおくりの作法(2013)イギリス/イタリア
原題:Still Life
監督:ウベルト・パゾリーニ
作品情報
トレーラー

ロンドンの公務員ジョン・メイ(エディ・マーサン)の仕事は孤独死した人の身辺を整理し葬儀をあげること。道に佇むジョンの姿が何度も映し出される。
おそらくは予定時間より早くに待ち合わせの場所に赴き、管理人と会う。遺品から故人の人となりや宗教を推察し、個々に合わせた葬儀を執り行う。
近親者と連絡を取り、葬儀への参加を促すのもジョンの仕事。しかし多くの場合家族は見つからず、見つかっても葬儀に来ることを拒否されてしまう。
そんなときでも強要はせず、ジョンはただ淋しそうに微笑むのだ。そんなある日、ジョンは仕事が遅いことを理由にリストラを勧告される。最後の仕事となったビリー・ストークの部屋でみつけた写真が気になり、ジョンはストークを知る人々を訪ね歩く。


 
孤独死」を扱う地方公務員を描く究極のヒューマンドラマ。
楽しみにしていた本作、ようやく観ました。


ジョン役のエディ・マーサンは誘拐犯やDV夫などの悪人が嵌るかと思えば、本作では地味な地方公務員を彼しかいないと思うほどの存在感で演じていて本当に上手い。
とにかくマーサンを見ているだけで楽しいんですよ。
いや、別にコミカルに演じている訳ではないのだけど、言葉の選び方、暮らしぶり、仕草に至るまで、ジョンのまじめで几帳面な人となりがつぶさに感じられてワクワクします。

映画的に面白いのはジョンが「見送ること」に真摯に向き合う理由が謎なこと。
仕事で弔った人たちの写真を家でアルバムに貼っていることにも最初は違和感を感じ
「仕事に真面目」というだけではない何か、
彼を突き動かすそれが何なのかを知りたい衝動にかられました。

ジョンの背景についてはもう少し説明があると分かりやすいのだけど
確かなのは彼自身が孤独だということ。
誰にも見送られることなく旅立つことの悲しみを誰よりも感じていたのはジョン自身であり、
たとえ見送る家族がいなくても、それは死にいく者の人生を否定するものではないと
彼は自分自身にも言い聞かせていたのではないかな。


人を弔うということは故人を慈しみ、その人生を讃えること。
映画の中に流れるそんな考えは『おくりびと』にも通じるところで、日本人の心にも響くものですね。孤独死したビリー・ストークの人生も、紐解けば彼なりに懸命に生きていて、彼に別れを告げたい人間も確かにいる。誰の人生も等しく尊いのだという描き方が優しい。
多くの人を優しく見送ったジョン自身の生き方も静かだけれど素晴らしく、それが原題の意味するところでもあるんでしょうね。


最後はたまらず号泣。音楽も心に響く、切なく優しくて美しい映画でした。