しまんちゅシネマ

映画ノート

思秋期

サンダンス映画祭で2部門を受賞し気になっていた、
ピーター・ミュラン主演のヒューマンドラマです。



思秋期
2010年(イギリス)
原題:Tyrannosaur
監督:パディ・コンシダイン
出演:ピーター・ミュランオリビア・コールマンエディ・マーサン


ピーター・ミュラン演じるジョセフは、身体の底からわきあがる怒りを
抑えることができず、崩壊寸前の中年男。
ある日、酒場で若者と喧嘩になったジョセフは、身を隠したチャリティ・ショップで
オーナーのハンナ(リビア・コールマン)と出会い、徐々に交流を深める。
しかしハンナ自身もある秘密を抱えており・・ という話。

俳優のパディ・コンシダインの監督デビュー作である本作は、
心に傷を持った男女の出会いと再生を描くヒューマンドラマでありラブストーリーです。




おそらくはヤクザがらみのジョセフは、真っ当な人生は生きて来なかったであろう男
妻を亡くし、今また友を癌で失おうとする彼は、大きな悔いと絶望に苛立っている。
そんな時に出会ったハンナは、裕福で宗教心に満ちた女性と思われたが
実は暴力夫の下、恐怖に怯えて生きていた。

映画はそんな二人が互いに安らぎを見出しつつ
それぞれの恐怖と対峙する様子が、緊張感の中描かれます。

ハンナのDV夫ジェームズを演じるのが『アリス・クリードの失踪』のエディ・マーサン
彼はこういう異常性のある役が本当に上手くて、怖い怖い。
ジェームズが初めて画面に登場するシーンなんて、もう
あらやだ、なにやってんの~?ってなもんで、、驚愕でした^^;

目を背けたくなるシーンもあるけれど、奇麗ごとじゃないとこがいいのと
ピーター・ミュランがカッコいいのよね。
3人の演技がそれぞれに素晴らしく見ごたえがありました。
お葬式のシーンで、友を弔う友人たちが不器用ながらも温かく、じんわり感動。

ちなみにタイトルのティラノサウルスとは、ジョセフの台詞の中で
死んだ妻が歩くと『ジュラシックパーク』みたいに地響きがしたと説明されています。
映画の中で、家の中でハンナの夫の足音が強調されていたのが印象的で
ティラノサウルス(=足音)は脅威の象徴だったかもしれません。

見守ってくれる人の笑顔や温かさがあって、人は再生を果たすことができるのだという描き方が静かな感動を呼ぶ秀作でした。
ただし、ジョセフの怒りが何故隣人の犬の泣き声で助長されるのかがわかりにくく
犬好きさんにはお薦めできません(汗)
英国インディペンデント映画賞でも作品賞・新人監督賞・主演女優賞を受賞。
監督の今後の活躍にも注目したいです。

秋に公開が予定されてるようです。

★★★★☆