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映画ノート

ラテン・ビート映画祭『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』

 
ラテン・ビート映画祭なるものが開催されるようで
上映作品の中に、以前から気になってた本作があったので、観ました。
2000年にボリビアで起こった「水戦争」を、『コロンバス』の映画撮影のためその地を訪れた
スタッフの目を通し描く、社会派ドラマ。
今年のベルリン映画祭で、パノラマ部門観客賞受賞しています。
雨さえも~ボリビアの熱い一日~(2010) スペイン・フランス・メキシコ
監督:イシアル・ボジャン
出演:ルイス・トサル、ガエル・ガルシア・ベルナル、エンマ・スアレス
歴史が変わるわけでもないのに、その認識はときを経て変わってしまうことがあります。
コロンブスの新大陸発見もそのひとつ。
昔は、大変な冒険家くらいのイメージだったのに
今では、コロンブス(・・と読むのは日本人くらいみたいなので以下コロンバスで)は
金(きん)を求め、現住民を虐殺したジェノサイドの立役者として認識されるようになりました。
 
映画はそんなコロンバスの映画を撮影しようと、南米ボリビアにやってきた
スペイン人スタッフが遭遇することになるボリビアの「水戦争」を背景に
欧米人の征服の歴史を考えさせられるという面白いつくりでした。

ガエル・ガルシア・ベルナルが演じるのは、スペイン人映画監督のセバスチャン。
現地では欧米企業参入により水道料金が200%跳ね上がり
住民と政府の間で摩擦が生じていました。
公募したエキストラから、原住民のリーダー役に抜擢したダニエルは
水事業に抗議する住民グループのリーダーでもあり、たびたび撮影に穴をあけるダニエルに
プロデューサーのコスタ(ルイス・トサル)は、撮影に集中しろと諭すわけですが・・・
 
まずコスタがこの地を撮影の場に選んだのは、制作費を安くあげられるから。
2ドルで雇ったエキストラに、危険な設営を手伝わせたりする
貪欲でシニカルなプロデューサーがコスタであり、本作の主演です。
逆にガエル君は、人道的なところもある。
ところが、いったん撮影が始まると、次々に浮かぶアイディアに
エキストラに過酷さを強いるようになる、そんな一面も持ち合わせています。
安く、質の高い映画を作ろうとするスタッフの思いなど、地元エキストラに通じるはずもなく
両者の価値観の違いが浮き彫りになるのが面白い。
劇中映画の中で、コロンバスの残虐さが描かれるのですが
スタッフが、原住民を人とも思わず利用する姿には
欧米人のエゴはコロンバスの頃となんら変わらないじゃないかと思ってしまうところ。
利益を優先し住民の思いに目を向けないスタッフが、ことの重大さに気づいたときには、
事態は軍隊を動員しての大暴動に発展していたんですね。
 
タイトルの「雨さえも」というのは、ダニエルが抗議行動の中で言う
政府は雨さえも自分たちから奪おうとしているという台詞からきてるのだと思います。
 
暴動に向かう過程もスリリングで、
女性監督が撮ったとは思えないほどのリアルさ。
終盤、プロデューサーのコスタが変わっていく様子が、やや唐突ではあるものの
原住民の純粋さに触れ、大事なものに気づいていく様子には希望が感じられ、良い後味を残しました。
最後、ダニエルがコスタに贈ったプレゼントにも感動でした。