しまんちゅシネマ

映画ノート

脱出


 
日本でもようやく『ウィンターズ・ボーン』が公開になりましたね。
『ウィンターズ~』を観る前に知っておくといいなと思うのが、舞台となるオザーク高原に住む
ヒルビリーと呼ばれる貧しい白人社会のこと。
この地域に限らず、山間部に住む生活レベルの低い白人をヒルビリーと呼ぶようですが
脱出』はこのヒルビリーの脅威を描く傑作異色サスペンスでした!
 
脱出 (1972) アメリ
監督:ジョン・ブアマン
出演:ジョン・ヴォイトバート・レイノルズ/ロニー・コックス/ネッド・ビーティ/ビル・マッキーニー
 
ダム建設によって消えてしまう前に川下りをしようと田舎の渓谷にやってきた都会の4人組が
地元住民とのトラブルから、とんでもない危険にさらされるという話です。
 
HERO-Kさんのところで最近知った言葉「田舎に行ったら襲われた」w
『テキサスチェンソー』に代表される、その手の映画だと思ったんだけど、ちと違いましたね。
第一そっち系なら、4人組が二組の若いカップルだったりして
中には巨乳ギャルもいるのがお約束ってもの。
ところが見てこの面々、都会人の4人はこんなむさい男たちなのよ。
 


しかも「俺が男だ」風のバート・レイノルズは弓まで持ってる(汗)
だから、田舎もののヒルビリーに襲われたって、
ただキャーキャーと逃げ惑うはずもなく、反撃に出ちまいますね~。
 

そこから、こんな物騒なところを逃げ出せ~っていう脱出アドベンチャーになるわけだけど
この映画の面白いのはそれだけにとどまらない。
それぞれに知性も良識もあり、無教養で野蛮な地元住民のヒルビリーたちと
対照的に描かれていたはずの都会人たちが
危機に瀕すや、ヒルビリー以上の暴力性を露にする。
さらには全ての隠蔽を図るなど、利己的な手段に出るわけですから、
本当に怖いのはどっちだって話。
 
この映画でヒルビリーと呼ばれる人たちのことを少し垣間見ることができますね。
まず立ち寄った給油所でロニー・コックスのギターとセッションを見せるバンジョー少年。
彼らが演奏する「デュエリング・バンジョー」も素晴らしく、映画の見所の一つですが
この少年その風貌からどうやら精神障害がある様子。
さらに民家を覗けば、魔法使いほどに枯れたばあちゃんと、やはり障害のありそうな女の子。
おそらくは近親者による結婚により、障害児が多く生まれているのでしょう。
ウィンターズ・ボーン』では地域ぐるみで麻薬売買に関与してたけど
この村ではウィスキーの密造をしてるようだし。
また若い女性の姿など一切見なかったように、
この村では男たちは女に飢えてるのかもしれません。
まぁ、それが事件のきっかけにもなっていくんですけどね。

とにかく凄い映画でしたね。
出演者のうち、カヌーの経験があったのはネッド・ビーティだけだったらしいけど
川下りの迫力といったら。しかもどうやって撮影したのかと驚きます。
予算を抑えるため、出演者には保険もかけられてなかったそうで
ジョン・ヴォイトの崖のぼりも、スタントなしに本人がやってるんですよね。
 
バート・レイノルズに至っては、急流を下る際に尾てい骨を骨折したらしい。
いかにも一番活躍しそうなレイノルズが、後半は骨折し、ただ寝てるだけ
なんでや~と思ったけどマジで痛かったんだ(^~^;)
最後の脱出シーンでは、カヌーで大人しく気絶してる役だったでしょうに、
痛みを訴えギャーギャー騒いでたもんな。いやはやお気の毒。
 
コックスの手があんな形になってたりの描写はマジ ホラー。
ちなみに最後に登場する保安官は、原作者であり、脚本も担当するジェームズ・ディッキー
 
閉鎖的な田舎の歪んだ恐ろしさも感じる作品
いや、面白かったですよ。トラウマ必至の傑作ですね。