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映画ノート

三重スパイ

映画の國名作選V フランス映画未公開傑作選」のっかかり企画で、
今日は今週公開になるエリック・ロメール『三重スパイ』をDVDで観ました。

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三重スパイ
2004年(フランス)
原題:Triple agent
監督:エリック・ロメール
出演:カテリーナ・ディダスカルセルジュ・レンコシリエル・クレールグレゴリ・マヌーコフディミトリ・ラファルスキーナタリア・クルグリーアマンダ・ラングレ
【ストーリー】
ギリシャ人の妻アルシノエとともにフランスへ亡命してきたロシア帝政軍の将校フョードルは、在仏ロシア軍人協会の事務員として働いていた。やがてスペインで内戦が勃発するとフョードルの出張が多くなり、アルシノエが問いただすとフョードルは諜報活動を行っていることを密かに打ち明ける。やがて、そんなフョードルの行動に疑惑を抱く者が現れ……。(映画.comより)


最初に言っておくと、タイトルから複雑なスパイ物を期待すると裏切られます(笑)
というのも、スパイ活動現場など一切登場しないスパイものだから。
ポスターの男性の風貌を見ても、カッコいいアクションなど見せてくれそうにないでしょ。

じゃこれは何かと言うと、元ロシア帝国将校で、今は在仏ロシア軍人協会の事務員として働きながら
実はスパイというおでこ・・失敬、素顔を持つフョードルさんと、その妻のほぼ会話で見せる
シニカルな歴史絵巻とも言える作品なんですね。

何がシニカルかと言うと、まずフョードルさんの立ち位置ね。
彼は元ロシア白軍、すなわち赤と表現される共産主義の新勢力に追われて
国を出たロシア人なんですが、三重スパイというのは、
フランスに仕えながら共産主義ファシズムを手玉にとり
秘密裏にソビエトやドイツにも情報を流しているということ。
すなわち、どの国も裏切っているわけだけど、
そもそも、彼の仕事へのスタンスが、自分の流す情報が大国の行動を支配していることに
快感を感じるからという自己中で宙ぶらりんなものなんですね。

宙ぶらりんではあるけど、言葉を返せば中立的に物事を見ているわけで
この映画の面白いのは、フョードルと彼の周囲の人々との会話で
第二次大戦前のヨーロッパの社会情勢を語りつくしている点です。
当時のニュース映像も多数挿入されるし
ヒトラースターリンムッソリーニなどを当時の人の視点で語っていることもあって
ヨーロッパの歴史に詳しい人は凄く面白く観れるかもしれません。

個人的に共感するのはフョードルの妻でギリシャ人妻のアルシノエでして、
彼女はヒョードルの行動に疑いを持ち、問い詰める。
するとフョードルはあっさり三重スパイであることを明かすのですが(笑)
妻は夫を愛しながらも、夫の理念には疑問を感じ、葛藤し始める。
夫婦の会話は信頼と裏切の心理ドラマへと発展します。

ま、こう綴ると、難しい映画に感じるかもだけど
フョードルの飄々とした話しっぷりは時にオフビートでもある。
実際終わり方を観ても、これってコメディだったん?ってな感じで、ちょっとキョトーン
もっと歴史に詳しいと、より面白みを感じたんだろうなと思う作品でした。

★★★☆