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映画ノート

エミリオ・エステヴェス監督作品『THE WAR 戦場の記憶』

PTSDという言葉が広く使われるようになったのは湾岸戦争からでしょうか。
エミリオ・エステヴェスの3本目の監督作品である本作は
ベトナム戦争後に心に傷を抱えた青年と家族との葛藤を通し戦争の痛みを真っ向から描く作品でした。


 THE WAR 戦場の記憶 1996年(アメリカ)
原題:The War at Home
監督:エミリオ・エステベス
出演:エミリオ・エステベスキャシー・ベイツマーティン・シーンキンバリー・ウィリアムズ

【ストーリー】ベトナムから帰還したジェレミーは、帰国して1年たっても悲惨な体験をぬぐいきれない。必要以上に明るく振る舞う母や、あくまでも厳格な父、自分の事しか考えられない妹に、彼のイライラは募る一方だった。やがて感謝祭の日、ジェレミーの我慢は限界に達し……。(映画.comより)


ベトナムからの帰還兵ジェレミーを演じるのは監督も努めるエミリオ・エステベス
ジェレミーは戦争のトラウマから明らかに心的外傷後ストレス障害PTSD)を患ってるんですが
当時、人々の間ではまだその病名自体あまり知られてなかったんですね。
 
帰還後一年経っても、ジェレミーはしばしば戦場にいる幻覚に囚われる。
そんなジェレミーを気にする一方で、家族もストレスを募らせていき感謝祭の日、互いのストレスは頂点に達してしまうのです。
 
今のように、病気として認識されていれば、家族の心構えも違うのだと思うけど
家族代々戦争を経験し、自らも戦争を戦った父はジェレミーの弱さを理解できず、世間体を気にしてしまう。

ムードメーカーである母親(キャシー・ベイツ)は、家族の円満は自分の責任とばかりに守り立てに必死になるが、上手くいかない。
 
 

みんなジェレミーを愛し、家族が元通りに機能することを願っているのに結果的には互いの傷を深め合う。

話がこじれにこじれ、個々のエゴに発展していく様子には『大人のけんか』並のおかしみを感じる部分もあったのだけど
これが思いのほかシリアスで、エステベスが描こうとしているのは、安易な家族ドラマでないことを思い知らされます。
 
べトナム戦争で人はどれほど傷ついたか家族を含め、周囲はどれほど理解がないのか痛切に描くこの作品
おそらくはアメリカにとって、イタ過ぎる映画だったでしょうね。
テレビで放映されたのを観たこともないですもん。

ジェレミーの父親を演じるのがエステベスの実の父マーティン・シーン
二人は、まもなく日本で公開されるエステベス監督作品『星の旅人たち』でも確執を抱えた親子を演じています。

しかし『星の~』は、息子の死後に父親が息子を理解していく姿を描くもので今思うと本作の続編とも言えるものだったと気づきます。
 
痛々しい物語ですが、反戦のメッセージというだけでなく家族関係を深く描く秀作でした。
未見の方は『星の旅人たち』の前に、ぜひご覧ください。
 
★★★★☆