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映画ノート

世界にひとつのプレイブック

オスカー前哨戦の中でも、もっとも重要視されるトロント国際映画祭
観客賞を受賞
したデヴィッド・O・ラッセル監督最新作です。




世界にひとつのプレイブック
2012年(アメリカ)
原題:
Silver Linings Playbook
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:
ブラッドリー・クーパージェニファー・ローレンスロバート・デ・ニーロクリス・タッカージャッキー・ウィーヴァー




パット(ブラッドリー・クーパー)は8ヵ月リハビリ施設で過ごしたあと両親の住む自宅に戻った。
妻には去られ、家も仕事も失くしたパットだったが、妻ニッキへの未練は断ち切れない。
彼友人のつてでニッキと交友関係のあるティファニージェニファー・ローレンス)とに知り合い、ニッキに思いをしたためた手紙を渡して欲しいと依頼するが、ティファニーはパットにダンスのパートナーとしてコンテストに出場してくれたら、という交換条件を出してきた。

原題のSilver Liningsというのは “every cloud has a silver lining.” というフレーズからきていて、
転じて、絶体絶命の状況から希望の光が見えること という意味があるらしい。

ということで、本作は絶体絶命の状況にある面々が登場し
それぞれが自分を見つめ、希望の光を見出していくお話です。




ブラッドリー・クーパー演じるパットは双極性障害を持ち、ある事件から精神病院送りとなり
教師の職も家も失い、妻にも去られた男。
映画は8ヶ月の療養を終えたパットが両親の住む家に戻り、社会復帰の準備をするところから始まります。
そんなときに出会うティファニーもまた、夫を失い、人生の軌道から外れてしまった女性。
会社中の男と寝るというセックス中毒を経て、今は人に攻撃的にあたることでストレスを回避している状況。
精神に破綻をきたしたところから回復過程にあるもの同士の出会いは
意外なケミストリー効果をもたらし、互いの心を癒していくんですね。

ストレートに言葉をぶつけ合い、一見シニカルなコメディに感じるのだけど
不思議と温かくて心を動かされます。
普通なら妻を恨んでもおかしくない状況なのに、パットはずっと妻ニッキを愛し
妻の求める自分になれば、ニッキを取り戻すことができると希望を持っている。
子犬のような瞳を持つブラッドリーだからこそ可能になる話で
彼の純真な存在感が、映画にある意味ファンタジー的な清々しさを加味してるんですよね。
勿論パットのニッキへの思いは、ティファニーとの恋の行方を予測不能にする効果もありました。




ジェニファー演じるティファニーはたまねぎのようにいくつもの皮をまとった女性。
その皮の一枚一枚を丁寧に演じたジェニファーはオスカーノミネートまず間違いなしでしょ。
最後につるりと素直なティファニーが現れる瞬間は感動です。
パットの父親役ロバート・デニーは、不完全な家族を持つ悲哀をコミカルかつ温かく演じて最高。
アニマルキングダム』以来大注目のジャッキー・ウィーヴァーもでしゃばりすぎず、
不安定な一家を地道に支える母親を好演。
デヴィッド・O・ラッセルは作品ごとにテイストの違う映画を作る人だけど
今回は脚本も担当し、その才能をさら発揮してますね。
ダンスコンテストシーンでは『ザ・ファイター』に続いてスポ根ものの味わい。
等身大であることって気持ちいいと思える素晴らしい作品でした。
今年一番かも。

★★★★☆