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映画ノート

昔々、アナトリアで<未>(2011)


オスカー前哨戦シリーズ、今日は昨年のカンヌで審査員特別グランプリを受賞し、今年の前哨戦のいくつかで外国語映画賞にノミネートされているトルコ作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア(原題)』を紹介します。




ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア
2011年(トルコ)
原題:
Once Upon a Time in Anatolia
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:
Firat Tanis, Muhammet Uzuner, Taner Birsel, Yilmaz Erdogan
  




郊外の車修理屋で酒を酌み交わし談笑する3人の男、
大きなトラックが通り画面を暗転させオープニングクレジットに続いて映し出されるのは
暮れなずむ山間の道を行く3台の車。
時々止まっては何かを探す。



どうやら冒頭の3人のうち、2人が殺人の容疑者として捕らえられ
供述にのっとり、埋めたとする死体を探している様子。
分乗しているのは、容疑者二人のほかに警察署長、運転手、穴掘り係の2人に加え
都会から来たと思しき、検察官と記録係、医者といったメンバー。
クライムシーンは見せないままに、映画は死体探しのキャラバンメンバーの
それぞれの仕事を映し出すのですよ。



車内では与太話が挟まれたり、始まってしばらくは何のこっちゃ解らない。
上映時間も2時間半と長くて、混乱しながら観ることになるんですが
だんだんにメンバーの背景や力関係などが見えてくると、
さり気にコーエンテイストのシニカルなおかしみを帯びてくる・・。

そもそも本作は、共同脚本を務めた人の、医師として働いていた頃の体験が元になったようで、犯罪に係わる人々の姿をリアルに映し出すことに徹した映画らしいのね。
そこのところ知らずに観ると、正直何のこっちゃ解らず戸惑うことになると思います。

アナトリアというのはトルコ語でたくさんの母親たちを意味する言葉なのだとか。

この捜索隊の中に女性はいないものの、
途中立ち寄る町長宅の美しい娘を、女神のように描いたり
医者、検察官、警察署長、それぞれの背景に妻が重要な役割を果たしていたり
被害者の妻が出てきたりと、女性は影の主役でした。




特記すべきは撮影技術でしょうね。
映像派の監督の映し出す、夜の色合いは
Kaz.さんの写真のそれに似ていて美しいのですよ。
光源は車のライトや、ランプなどわずかな光というから驚き。

終わってみれば、淡々とした中に人生の悲哀を感じ、何かあとを引く。
2時間半という長さも、夜を徹して捜索するメンバーの疲れを見せ、
それぞれの仕事振りを丁寧に描くのに必要だったんでしょうね。

ちょっと不思議な感覚の作品です。



★★★★