しまんちゅシネマ

映画ノート

身をかわして




今年度のカンヌ映画祭パルムドールに輝いた、アブデラティフ・ケシシュ監督の2003年の作品『身をかわして』をDVDで観ました。
身をかわして(2004)フランス
原題:L'esquive
監督:アブデラティフ・ケシシュ
出演:サラ・フォレスティエ/オスマン・エルカラス/サブリナ・ウアザー
日本公開:
最近のフランス映画は移民問題を描くものに多く出くわします。
本作の主役は、パリ郊外の移民の多く集まる地域に暮らす高校生たち。

来る文化祭の出し物の舞台劇『愛と偶然の戯れ』の主役に抜擢されたリディアは、綺麗な舞台衣装を着て、貴婦人を演じることが嬉しくてたまらない。
そんなレディアに恋するのがアラブ系の寡黙な少年クリモ。
しかし、クリモの元カノ、マガリがクリモに未練たらたらなことから、自体は同級生を巻き込み思わぬ騒動へと発展する・・



移民の多い、パリ郊外の中産階級エリアを舞台に、高校生たちの摩擦や友情を描く作品です。
この映画、正直、前半は何が面白いのか分りかねます。
劇の練習中、解釈の違いから言い争いが勃発。
彼らの言葉のやり取りがフランス語で聞けばかなり面白いらしいのだけど、英語字幕で観た私には、スラングの変化や言葉遊びといったものは理解できず、延々続くがなり合いにちょっと辟易しちゃいました。

でも争いに、リディアに対する羨望が見え隠れし始めるあたりからちょっと面白くなる。
同じようにつるんできた仲間が一人突出してくることへの嫉妬は、思春期にはありがちですが
アラブ系や黒人が大半のクラスの中でブロンド碧眼のリディアはちょっと特別な存在で、嫉妬する側の感情も複雑。クリモの告白が、さらに波紋を広げ、リディアの周辺ではなにやら不穏な雲が立ち込める。

ところが問題が大きくなるほどに、意外にも彼らの友情の深さが明らかになるのが面白いんですね。
ある事件で緊張感が漲る中、彼らは同じ屈辱を受けるのだけど、同時に連帯感を高めていく。

正直、監督の意図したところを理解できたか自信ないんですが、
文化祭の当日の年少組の舞台発表からは、不思議な感動が湧き上がり泣けて仕方なかった。
それは舞台を見守る親の子供たちに向ける温かい視線や、懸命に導く教師の願いみたいなものをひしひしと感じたからだろうな。ぶつかり合って、更に絆を深めた若者たちの達成感も心地よかった。

リディアとクリモの恋の行方は明確には描かれないので、解釈は観客に委ねられることになる。
劇の指導中に教師の言う、貧しいものの根底は変わらず、金持ちはあくまで金持ち、などの言葉が映画のテーマとするなら、ラストシーンはクリモの諦念を描く現実的で物悲しいものと取るべき?

でもねぇ。そんなものを乗り越えた未来があってもいいじゃない。
私はあえて、希望を感じるラストだったと思いたいけどなぁ。