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映画ノート

それでも夜は明ける




11月になりました。
映画賞レースの第一陣トロント映画祭も終わり、前哨戦が本格的にスタート。
10/24にはゴッサム賞のノミネートが発表されました。
今月はオスカーに絡みそうな作品をいくつかとりあげていきます。
まずはトロント映画祭で最高賞のピープルズ・チョイス賞を受賞
ゴッサム賞でも作品賞にノミネートされている『12 Years a Slave(原題)』から。
監督は『SHAME -シェイム-』のスティーヴ・マックィーン

それでも夜は明ける (2013)アメリカ/イギリス
原題:12 Years a Slave
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォーマイケル・ファスベンダールピタ・ニョンゴブラッド・ピット、クヮヴェンジャネ・ウォリス、ベネディクト・カンバーバッチポール・ダノサラ・ポールソン
日本公開:

南北戦争前の1841年。ニューヨークでヴァイオリン弾きとして暮らす家庭人ソロモン・ノースアップ(キウェテル・イジョフォー)は、拉致され奴隷として南部に売られる・・。

12年間の壮絶な奴隷生活を綴ったソロモン・ノースアップの自伝を映画化した作品です。

内容的にはタランティーノの『ジャンゴ~』やコーマン『マンディンゴ』に通じるものがありますが、
自由人でありながら奴隷とされてしまったノースアップ自らが綴った伝記が基とあって
黒人の憤りや悲しみなどが主観的かつリアルに描かれているのが他と違うところ。




スティーヴ・マックィーン監督は、その時代をきっちりと再現したかったというだけあり、綿花農園やサトウキビ収穫のシーン、黒人たちの食事のシーンなどに当時の奴隷たちの生活を垣間見る思いです。
主演のキウェテル・イジョフォーは、屈辱を受けても人として落ちることなく、希望を持ち続けるソロモンを熱演。ゴッサム賞でも男優賞にノミネートされています。




イジョフォーも素晴らしいですが、個人的には監督とは『ハンガー(原題)』『シェイム』に続いてのタッグとなるマイケル・ファスベンダーがよかった。
この時代の農場主と言えば、血も涙もない残虐なレイシストというイメージだけど、ファスベンダー演じる農場主は奴隷の黒人少女を愛しながらも、叶わず、その歪んだ愛を暴力に変える男。自分にはない知性を漂わせるソロモンにも恐れを感じ、妬みと狂気と内面の弱さの入り乱れる複雑さ。虚無感漂う悲しきセックスアディクトを演じさせたらファスベンダーの右に出るものはいない。ポール・ダノの憎たらしさも最高だった。
黒人少女を演じるルピタ・ニョンゴも魅力的で、3人揃って助演ノミネートあってもおかしくない。

ソロモンがどうやって奴隷生活に終止符を打つかは映画を観ていただくとして
本作で私が一番心に残ったのは、綿花畑で奴隷たちが収穫しながら歌を歌うシーン。
自分は自由人なのだと、他の奴隷たちと一線を画していたソロモンが、ついに皆と一緒に歌いだすこの瞬間に、たまらず泣けました。ソロモンは小さな尊厳が消える思いに駆られたのではないか。それでも歌わずにいられない。黒人霊歌は奴隷たちの哀しみや辛さを乗り切るためのひとつの手段であり心の支えだったんでしょう。このシーンにソロモンの悲しみと力強さが同居させ、当時の奴隷たちの心情や黒人霊歌発祥のルーツまでも感じさせてくれる。素晴らしい演出にも拍手です。

目を覆うほどに痛いシーンもあるし、痛切で重い作品ながら
人としての尊厳を守るため、希望を持ち続けたソロモンの強さに感動します。
同時に最後の彼の表情から無力からくるやるせなさを感じるのも確か。
こんな歴史があったんだということを、私たちは忘れてはいけない。
ご自身も黒人である監督のメッセージも感じます。

『グラビティ』とともに賞レースにどこまで絡むか楽しみです。
登場時間は少ないもののブラッド・ピットは製作者として評価されますね。
ハンス・ジマーの美しい音楽も映画に重厚さを与えています。

トラックバック一覧

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    • March 16, 2014 09:53
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    • [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
    • March 20, 2014 06:22
    • まずオープニングで驚く。 基本プロットは予想がつく通り、主人公はNYに住む、自由証明書で認められた自由黒人。 地位、名誉、家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、南部に連れて行かれる。 そして奴隷にされてしまう、 のだ...
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    • [ディレクターの目線blog@FC2]
    • April 13, 2014 20:40
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    • [ここなつ映画レビュー]
    • April 22, 2014 14:55
    • 「これがアカデミー賞作品賞だ!」と言われても、「そうですか」としか言いようがない…。いや、悪い作品ではない。丁寧に作り込まれている。騙されて、自由人から奴隷の身に落とされてしまった黒人の主人公ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)の悲しみ、怖れ
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