【映画】『チェインド』鬼才の娘ジェニファー・リンチ監督の秀逸スリラー
チェインド(2012)カナダ
原題:Chained
監督:ジェニファー・リンチ
出演:ヴィンセント・ドノフリオ/ エイモン・ファーレン/ エヴァン・バード/ ジーナ・フィリップス
ジェイク・ウェバー
9歳の少年ティムは、タクシー運転手のボブに母親を惨殺され、彼の自宅に監禁されてしまう。ラビットと名付けられた少年は足を鎖で繋がれ、猟奇殺人を繰り返すボブの下で成長していくが…。
デヴィッド・リンチの娘ジェニファー・リンチ監督によるサスペンス・ホラーです。
「帰りはタクシーを使うんだよ。バスじゃなくてタクシーね」
「高いのに悪いわ・・」
「いやいや、タクシーを使いなさい。ティム、しっかりママの面倒を見てな」
映画館に送ってくれた夫と妻の会話です。
映画が終わり夫の言葉どうり、タクシーに乗り込む9歳のティムとママ
ところが途中から運転手の様子がおかしい。
道が違うと訴える母親の言葉を無視し、ひと気のない荒野に向かう様子に
早々からただならぬ緊張感が走るのですよ。
タクシーの運転手ボブはちょっと太めで漫才師に似た人がいるのだけど思い出せない。
ボブを演じるヴィンセント・ドノフリオの異様な存在感がまず凄い。
ボブは母親をなんなく殺してしまう。
彼は定期的に女を家に連れ帰っては、強姦の末惨殺するのを繰り返すサイコパス。
ところが男はティムは殺さず、彼の「仕事」の後始末や家の掃除をすることを強いるんですね。
食べ物はボブの皿に残った食べ残しのみ。
足には鎖をつけられ、逃げることも出来ず、男の言うなりになるしかないティム。
男が少年を監禁する映画と言えば小児性愛を描いたオーストリア映画『ミヒャエル』を思い出しますが
本作の場合、ボブはティムに性的な興味は示しません。
そうこうするうちに9年のときが過ぎ、母親を守れなかった悲しみを秘めたまま
ティムはすっかり青年に成長。
そんなティムにボブは教育の必要性を説いたりする
この妙な父性みたいなもんはどこから来るのだろうか・・
時々挿入される猟奇殺人の緊張感と、ティムとボブの擬似親子のような関係の不思議さ
相反する感覚に混乱しながら見るうちに、映画はとんでもないツイストへと突入するんですねぇ。
ここにきて全てが繋がる構成に舌を巻きました。
しかしながら、途中ティムが従順に18歳までを迎えることにもうひとつ説得力がないのが残念。
ラストシーンは意味は判るものの、少しフラストレーション。
監督のインタビューによると、ボブもティムも虐待を受けて育ったという点では同じ。
けれど、母親が最後に見せた愛情など、映画の中でボブとティムの違いを明確に示したつもりとのこと。
その上でラストシーンはティムの未来を想像するシーンとなるわけですが・・
これもう少しわかりやすくしてもよかったんじゃないかな。
観客には伝わりにくいかなと思いました。
とは言え、単なるグロい猟奇ものにせず、ヒューマンなドラマを入れたところは好みで
期待以上に楽しめた一本です。
ちなみにの年のシッチェス映画祭ではクローネンバーグ監督の息子ブランドンが『アンチヴァラル』で新人監督賞を受賞しています。2人の二世監督が注目を浴びた年だったんですね。