しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】Mommy/マミー





Mommy/マミー
(2014)カナダ
原題:Mommy
監督:グザヴィエ・ドラン
日本公開中
作品情報

あらすじ
シングルマザーのダイアンは矯正施設から退所したばかりの息子スティーヴと二人暮らしを始めたが・・
トレーラー


感想
カナダの新鋭グザヴィエ・ドランが監督し、昨年度のアカデミー賞外国語賞にもノミネートされた本作は、多動性障害という障害を持つ15歳の息子と母の葛藤を描くヒューマンドラマです。


まずこ映画の舞台を架空の世界のカナダとしてるのが面白いですね。
ここでは新たに「発達障害の子どもを持つ親が、法的手続きを経ることなく養育を放棄して、施設に入院させることができる」という法案が可決され、シングルマザーであるダイアン(アンヌ・ドルヴァル)はこの法律を利用し、スティーヴを施設に預けるというオプションが与えられます。
ダイアンは蓮っ葉イケイケな母親ですが、スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)の可能性を信じ、一緒に暮らし始める。しかし、時に手の付けられないほど暴力的になる息子を前にダイアンは疲弊していくんですね。



監督のドランは19歳で鮮烈なデビューを飾り、すでに5本の作品を世に出した脅威の26歳。
しかも前3作で主演も務める彼は表現力も兼ね備えた男前でもあるんだよねぇ。
実はデビュー作の『マイ・マザー』は臭い物に蓋をしないリアルな描写に引くところがあって、途中までになってしまってるんですが・・
本作が再び「母親」をテーマにしているところに監督の特別な思いを感じ、興味を惹かれました。

インタビューによると、ドラン自身が暴力性をはらんだ問題児だったらしく、スティーヴはその最悪バージョンとのこと。

ドランは自分の力で「怒りの衝動」をコントロールできない人間の気持ちを理解できるからこそ、その不安や恐れを表現しようと思ったのだと言います。

もしも母親が自分を愛することを止め、そして自分が人を愛することさえできなくなったらというスティーヴの不安、息子を見捨てたくないと思いながらも、シングルマザーが障害のある息子と生きていくことの難しさ・・
親子の苦しみに胸が痛みます。
でも、映画は何が助けになるかというところにヒントを与えてもいて、諦めてはいけないんだと感じさせてくれる。ドランは映画が自伝ではないと言ってますけど、彼自身が乗り越えてきた過程は反映されているのかもしれませんね。役者陣の演技も秀逸で、愛のドラマを堪能しました。

印象的だったのは、当たり前の人が当たり前に得ることのできる「幸せ」を垣間見せるシーンの高揚感と現実を叩きつけられる絶望感とのギャップ。
ハッとするほど新鮮な演出に監督の才能が光りました。

アスペクト比1:1という画面に最初は設定を間違えたかしらと思ったのだけど
奥行きや縦の長さが強調される絵作りは、これまた新鮮。

これから注目すべき監督なのは間違いなさそう。
審査員賞を受賞したカンヌのスピーチは感動しました。