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映画ノート

【映画】アメリカン・ドリーマー 理想の代償



アメリカン・ドリーマー 理想の代償(2014)アメリ
原題:A Most Violent Year
監督/脚本:J・C・チャンダー
日本公開:2015/10/1


アベルとアナの実業家夫婦は家庭用暖房に使うオイルを扱うビジネスを拡大しており、さらなるビジネスチャンスを掴むべく、川に面した広大な土地を購入しようとしている。
しかし矢先、会社のドライバーが何者かに襲撃され、オイルを積んだトラックごと持ち去られるという事件が発生し・・



マージン・コール』『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のJ・C・チャンダーが監督・脚本を勤め、80年代のニューヨークでオイルビジネスを展開しようとする若者の野望を描いた社会派ドラマです。

まず、オイル強盗にトラックを奪われる瞬間や、新人社員に危険が及ぶ様子に終始ヒヤヒヤ。緊張感を煽る描写が秀逸です。

主人公アベルを演じるのはオスカー・アイザック
アベルはクリーンなビジネスを信条としており、彼の部下に向ける言葉からは、理想に燃える若き獅子という印象を受けます。
しかし度重なるオイル強盗による損害で夢の実現に待ったがかかり、おまけに警察は何故か彼に脱税の嫌疑をかけ強盗の捜査もまともにしない。
なんでやねんと腹が立ち、犯人が一日も早く見つかってくれと祈る気持ちで展開を見守ることになるんですが・・

思えばオスカー・アイザックってちょっとグレイな役が似合う人ですよね。
劇中、彼の出自は一切説明されません。
でも彼は何故かマフィアと交流があり、警察とのやり取りの中、妻アナ(ジェシカ・チャステイン)にもそれなりのバックグラウンドがあることが覗える。
クリーンの自意識も高く部下思いにも見えるアベルですが、観てるうちのなんかひっかかってくる。

邦題の理想の代償という副題からすると、アメリカン・ドリームを成し遂げるために彼は何かを失うあるいは犠牲にするのだという感じに受け取れるけれど、アベルが失ったとすれば、それは彼が自分自身に向けた勝手なイメージであり自意識。
次第に彼のエゴも見えてきて、シニカルなラストシーン含め、私たちが目にするのは彼に元々備わっていた資質なのだと思わせる。生き馬の目を抜くビジネス界で成り上がる男の奮闘を描きながら、思わぬダークさに帰着するところが社会派チャンダーらしい描き方だと思いました。




起こったことの事実関係を説明せず、観客の想像力に任せるという手法もいいと思うし、面白く観終えたんですが、個人的にはエンディングの歌に作り手の意図が透けて見えてガクっときちゃったんだなぁ。
ビジネスマンの話にしてくれたほうが気持ちよかったわ。

あとマフィア絡みの映画として、80年代というのはちょっとピンとこなかったな。