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映画ノート

【映画】アクトレス ~女たちの舞台~


アクトレス ~女たちの舞台~(2014)フランス/ドイツ/スイス
原題:Sils Maria
出演: ジュリエット・ビノシュ/ クリステン・スチュワートクロエ・グレース・モレッツ/ ラース・アイディンガー/ ジョニー・フリン/ ブラディ・コーベット
日本公開:2015/10/24

授賞式を欠席する劇作家ヴィルヘルム・メルヒオールに代わって賞を受け取るためチューリッヒに向かう途中、女優マリアはメルヒオールの訃報に触れる。恩人の死に打ちのめされるマリア。そんなマリアに新進監督クラウスがリメイク版『マローヤのヘビ』への出演を依頼するが・・


「二ヶ月くらい空きが出来たら、ささっと何か書いてくれない?
一緒に映画作りましょ。」
ビノシュからのそんな申し出で作り始めたという本作は、女優ジュリエット・ビノシュを大いに意識したフェイクドキュメンタリーみたいな印象が面白い作品でした。

ビノシュ演じるマリアは、20歳の頃に演じた『マローヤのヘビ』のシグリッド役が当たり世に出た女優。恩人である監督が死んだタイミングでマリアにリメイク版への出演がオファーされるんですが、マリアはかつて演じたシグリッドではなく、シグリッドに翻弄される中年女性へレナの役だったことにショックを受けます。マリアはいまだにシグリッドのイメージを引きずっていて「自分がやるならシグリッドでしょ」と思ってるのがちとイタい。
シグリッドとヘレナは表裏一体の存在と監督に説明され考えてみることにするマリア。しかしアシスタントのヴァレンチノクリステン・スチュワート )と読みあわせ稽古をしていても、惨めさばかりがつのってしまうのです。
彼女は役を受け入れることが出来るのか という話ですね。


人間誰しも老いを受け入れるのは難しいもの。
華やかな女優の世界に身を置くものはなおのことでしょう。

マリアがヘレナ役を拒むのは、ヘレナは中年の惨めな負け犬との意識があってのこと。しかしそんなマリアの思いはヘレナへの解釈を通し、少しずつ変わっていきます。

映画の大半をマリアとヴァレンチノの読み稽古の、いってみれば劇中劇が投入されるのが面白い作品です。と言っても、劇の内容自体はストレスフルで、はっきり言って面白くはないんですが、マリアとヴァレンチノの関係がシグリッドとヘレナの関係に重なっていくのが面白く、2人の演技力にも驚かされました。

普段はおっさんおばさん風なのに、ドレスアップすると女優顔になるビノシュすげー

今回私は初アサイヤス体験となりましたが、
フィルモグラフィーを見ると、彼は85年にカトリーヌ・ドヌーヴが主演したアンドレ・テシネ作品『夜を殺した女』で脚本を書いてるんですね。
キャストに二重の役割を投入する作家であることがイメージできます。

えっと、ここネタバレになるのだけど、自分の解釈を説明する上で外せない部分なのであえて書きます。未見の方はスルーでお願いします。




今回特に面白いと思ったのが、後半、マリアとヴァレンチノが訪れたスイスの山での出来事です。舞台劇のタイトルでもある「マローヤのヘビ」という自然現象を目にした瞬間、一緒にいたはずのヴァレンチノが忽然と姿を消すのです。

最初はヴァレンチノはどこか違うスポットからこの現象を見てるのだろうと思ったのだけど、そういう描写もなく、必死にヴァレンチノを探すマリアの姿を見せた後、映画はヴァレンチノのいない日常へとカメラを移すのですよ。

色んな捉え方があると思いますが、私としてはひとつにはヴァレンチノがヘレナへの自分の解釈を実践して見せたのかなと思います。
マリアは「(劇中)ヘレナが山の中で消えたのはヘレナの死を意味する」と言い切るのですが、ヴァレンチノはそうとは限らないと解釈していまして、「ヘレナは新しい人生を始めたかもしれないじゃないか」と言うのです。
惨めなやつは消えるしかないというマリアの考えを否定するヴァレンチノの捉え方は
歳を取ればものの見方も変わり、若い頃とは違ったスタンスで道を歩むことができるのだという映画のテーマに通じるものです。

もう一つ、ヴァレンチノの消滅は、表裏一体とされていたシグリッドがヘレナになった瞬間。すなわちマリアがヘレナを受け入れ、元々自分の中にいたシグリッドとヘレナが一体になった瞬間だったという解釈です。監督、というより脚本家アサイヤスはこういうことをやる人だと思うので(笑)

人間関係を緊迫させたあとには、カノンの曲とともに、雄大な自然の光景を見せてみたり緩急をつけて見るものの情緒をコントロールしてるのが心憎い。
山間に雲がグングン伸びていくマローヤのへびの現象を見せるシーンは神秘的
マリアの変化を感じながらのこのシーンには、心が洗われるような静かな興奮を覚えました。


リメイク版でシグリッドを演じることになる新進女優ジョアンにクロエ・グレース・モレッツ。クロエちゃんもポテンシャルの高さを感じさせる演技。

はっきり言って、マリアが老いを受け入れたのかどうかはよくわかりません。
ただ、彼女は若さに囚われるかのように、あるいは自分の分身のようだったヴァレンチノから離れ、女優としてのこだわりは保ちつつも、ヘレナを演じるのです。


女優の恋人にしては地味なおっさんだなと思っていたマリアの恋人が最後にはとてもお似合いに見えてくる。ヴァレンチノに変わってマリアを癒してくれるだろうことにもホッとさせられます。

新旧交代というシニカルな現実を描きながら
大女優として「今」を演じるビノシュにリスペクトとエールを送る作品でしたね。
ビノシュ以上に評価されているのは皮肉な話ですけど
若手が道を拓いていくこともまた映画のテーマに通じるところでしょう。




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2015/11/12(木) 午後 9:44 [ 今昔映画館(静岡・神奈川・東京) ]