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映画ノート

【映画】ビースト・オブ・ノー・ネーション

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ビースト・オブ・ノー・ネーション2015)アメリ
原題:Beasts of No Nation
監督/脚本:キャリー・ジョージ・フクナガ
出演: エイブラハム・アッター/ イドリス・エルバ

【あらすじ
内戦中の西アフリカのとある国、アグーの住む村にも政府軍が押しよせ・・

西アフリカの架空の国を舞台に、少年兵となった少年の軌跡を追うNetflix制作の衝撃作
いくつかのアカデミー前哨戦でイドリス・エルバ助演男優賞にノミネートされてるので観てみました。

今年一番泣かされてしまった・・

アグーの暮らす村は、内戦下にあっても比較的平和で周辺の難民を受け入れたりしています。
学校が閉鎖され時間をもてあますアグーと友人たちが
テレビのフレームを利用した「移動テレビ」なるパフォーマンスを披露する冒頭は
不当な金額をふっかける子供たちに苦笑しながらも、軍用の食料を分けてあげる国連兵士との交流なども
さりげなく描かれ微笑ましい。

ところが内戦が激しさを増し、ついにアグーの村にも危険が迫ると、映画は一気に緊張を帯びてきます。
より安全な場所に避難することになった母と小さな妹と離れ離れになった矢先
スパイを探す政府軍に襲撃され、家族を殺されたアグーは一人ジャングルへと逃げ込むんですね。

なにが起きてるの?どうして?!!

説明を極力省いた演出により、観客もアグーと同じ恐怖と困惑の中に放り込まれる
冒頭のほのぼのムードが一転、アグーの孤独な逃走に息を呑みます。

そんなアグーの前に現れるのが政府に抵抗するゲリラ軍団。
もはやここまで、と思うところでアグーは軍団のリーダー「コマンダント」(イドリス・エルバ)に命を拾われる。
しかし、アグーはここで少年兵として闘うことを余儀なくされるんですね。

考える余地もなければ、他の選択肢もないのがよくわかります。

アグーはやがてコマンダントの信頼を得て、少年兵のリーダー的な役まで担うことになる。
連帯感とある種の恍惚感とで政府軍相手にライフルをぶっ放す子供たちの姿に愕然

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村人たちの死体が道にあふれ、永遠とも思えるバトルが続く中
かなりグロい描写まで施されることに気持ちが落ち込み
こんな映画作る必要あるのかとさえ思い始めるとき、映画は大きく展開します。

終盤、アグーの口からタイトルにもついている「ビースト」という言葉が出たとき
アグーの心の中を理解するために、この過酷な闘いを嫌というほど観なければいけなかったんだと気づいて
涙が止まらなくなった。

少年兵を率いるコマンダントは酷い奴だと思うけれど、彼がいなければ子供たちはとっくに死んでいただろうとを思うと、彼を悪人と言い切ることは難しい・・
イスラム国などでもこうして少年たちが戦闘に参入しているであろう現実を思わずにいられません。
残虐性と優しさを持ち合わせたカリスマ指導者を演じたイドリス・エルバが素晴らしい。


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監督はデビュー作『闇の列車、光の旅』で南米の不法移民問題のフォーカスした日系4世のキャリー・ジョージ・フクナガ
本作も原作に感銘を受けた監督が15年の構想を経て撮りあげたというからその思い入れは相当なもの。

映画の最後にみえる一筋の希望に、監督の思いの全てが詰まっているように思いました。
辛いけど世界で起きていることに目を背けてはいけないと感じた一本。

現地でスカウトされたというアグー役のエイブラハム・アッター君も
素人とは思えない演技でアグーの内面の変化を表現していて凄い。

Netflixユーザーはぜひご覧ください。



余談ですが、私はallcinemaの表記を基準にしてるので監督の名前Caryをキャリーと書いたけど
女性名Carrie(キャリー)とは綴りも違うわけで、ケイリーまたはケーリーと書くほうがいいんじゃなかろうか。
ケーリー・グラントも同じCaryだよ。