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映画ノート

【映画】ファントム・スレッド(2017)



ファントム・スレッド
Phantom Thread
 
ポール・トーマス・アンダーソンとダニエル・デイ=ルイスが再びコンビを組んだ一本。
前作『ゼア・ウィル・ビー・レイン』で猛々しい主人公を演じたダニエルが、今度は洗練された著名な服飾デザイナーを演じています。

まずはダニエル演じるレイノルドが朝、身支度をするシーンに引き込まれます。
椅子に座ってデッサンしたり、布を断つ、レイノルドの所作の一つ一つも美しい。
長い間かけて培った技術は芸術と呼ぶに等しく、全てがルーティンに則っていて、
前に観た『二郎は鮨の夢を見る』の二郎さんを思い出してしまった。
 

そんなレイノルドに肝心なルーティンが壊される事態が発生します。
専属モデルに加齢による体型変化でモデル交代が急務な中
ホテルのレストランで給仕をするアルマという女性がレイノルドの目に留まります。
レイノルドがアルマに声をかけ2人は急速に惹かれ合うのだけど
少しそそっかしいところのあるアルマの存在が、レイノルドの日常を侵食し始めるのですね。
 
 
 
芸術派肌の天才デザイナーを演じたダニエル・デイ=ルイスのなりきり度は感服ものです。
彼はこの映画のために一年間ドレスづくりを修業したらしいですが、所作の一つ一つに熟練を感じさせるところが凄い。
彼が布に向かうと周りの空気がピンと張り詰めた感じがするのは、彩度を落とした映像のせいか。
音楽とともに、全てを美しく切り取ってしまう演出にも恐れ入ります。
 
アルマを演じるヴィッキー・クリープスの清楚な佇まいもいい。
レイノルドのビジネスを支える姉役のレスリー・マンヴィルとの対比も効いてます。
この映画は、まぎれもなくラブストーリーなのだけど、そこは天下のPTA
普通の恋愛ドラマで終わるはずもなく、甘美なものを期待していた私は、途中で衝撃を受けてしまった。
下手をすればコメディにもなってしまいそうな、そのギャップこそが多分本作の肝。
愛の形はそれぞれよのぉと、最後はほっこりですけどね。
 
キャストの演技も、芸術性の高さもぴか一だったと思う反面
長いと感じるところもあったので、あと20分ほど削ってくれたらよかったかも。
というか、小室さんの会見動画で夜更かしした私は、途中眠ってしまって20分ほど勝手に削ったはず(汗)
 
ちなみにダニエル・デイ=ルイスはこれを最後に引退を表明しています。
あまりにも役に入り込む彼にとって、映画が終わるということは自分を失うことに等しく
役から抜け出せないまま、どうしていいかわからない状況に陥るらしい。
常にオスカー獲りを期待されることの精神的な負担も相当なものでしょう。
壊れてしまう前に重い荷物を下ろした方がいいかもしれませんね。
とりあえずお疲れ様でした。 職人技楽しませてもらいました。
 

映画データ
 
製作年:2017年
製作国:アメリ
監督/脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス
   レズリー・マンヴィル
   リチャード・グレアム
   ヴィッキー・クリープス