しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】ジョジョ・ラビット

f:id:puko3:20210117142312p:plain

ジョジョ・ラビット(2019)
Jojo Rabbit

 

第二次世界大戦下のドイツを舞台に、10歳の少年の成長を描く戦争ドラマです。

【ストーリー】
第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りて、立派な兵士になろうと奮闘していた。
しかし、心優しい彼は訓練でウサギを殺すことができず、“ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられてしまう。
そんな中、ジョジョは家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサが匿われていることに気づく。やがて、ジョジョは皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく——。【公式サイトより】


爽やかな少年少女合唱団の歌声をバックにしたFOXサーチライトのオープニング・ロゴにいやがおうでも気持ちが上がと、次には『抱きしめたい』(ドイツ語バージョン!)
しかも民衆が熱狂しているのがビートルズではなくヒトラーというのがまた。。監督の音楽センス凄いわ。

10歳のジョジョは立派な兵士になるべくヒトラーユーゲントに参加し訓練に励んでいます。子供に銃や手りゅう弾持たせて、戦争に駆り立てようとするくらいドイツは敗戦の色濃い頃なわけで当然ホロコーストも横行している。
ヒトラーなどもはや熱狂を受ける存在ではなかったはずだけど、前半はそのあたりに触れません。

ユーゲントでの訓練は戦争ごっこのノリで楽しいし、敬愛するヒトラージョジョのイマジナリーフレンドとして励ましてくれる。
子供の目線ではドイツはまだ前途洋々なのです。

しかし、ジョジョの家にユダヤ人の少女エルサが匿われていることを知ることになると、映画の見せ方も少し違ってきます。
隠すべき秘密を抱えたジョジョの周りでにわかに不穏な空気が漂い始め、ジョジョが物事を知れば知るほど危険がせまってくる。
やがて観客もジョジョと一緒に銃弾飛び交う市街戦に放り込まれることになるわけで、徐々に加速する戦争の恐怖の描き方はなかなかのものです。

ただ本作はアクションを売りにした戦争映画ではありません。
子供目線なのはきっと、バカげた教育を真に受けてしまう子供をえ描くことで、偏見のまかり通る今の時代に、何かを感じて欲しいというメッセージがあるのでしょう。

ジョジョユダヤ人に対してとんでもない偏見を持っていましたが、エルサを知り、実際に彼女の美しさや強さに触れることで、純粋にエルサに好意を持つのです。

ジョジョ自身、怪我で希望する戦闘訓練から外されたり、顔に傷が残るなど弱い立場になったからでもあるでしょう。
傷ついて初めて人は人の痛みに共感できるようになる。挫折が人を成長させるという描き方も優しくて好き。


サム・ロックウェル演じるヒトラーユーゲントの指導者キャプテンKもまた挫折を知る人でしたが、ハチャメチャに見えて、実は誰よりも世の中を正しく見据える男だった。ロックウェルは期待を裏切りません。

もうひとり、重要な役割を担うのがジョジョのお母さんを演じるスカ―レット・ヨハンソン。
ジョジョに危険が及ばないよう、ユダヤ人少女を匿っていることも内緒にしている母親ですが、彼女は常に正しい考えを持ち行動している強い女性です。

キーワードは「できることをする」。
誰かが「できることをする」ことで、世界はより良い未来に向かうことができるのだと、平和の重みを感じる一本でした。

 

映画データ
製作年:2019年
製作国:アメリ
監督/脚本:タイカ・ワイティティ
出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス/トーマシン・マッケンジータイカ・ワイティティサム・ロックウェルスカーレット・ヨハンソン

 

【映画】ミッドナイト・スカイ

今年の抱負の二つ目は、新しめの秀作も観ていくこと。
最近はアカデミー賞Netflixオリジナル作品が多くノミネートされるようになったのでNetflixに再加入することにしました。コロナの影響で4月に延期された賞受賞式までに話題作は観ていきたいと思います。

まずはジョージ・クルーニーが監督&主演をつとめたSF『ミッドナイト・スカイ』から。


f:id:puko3:20210112142457j:plain

ミッドナイト・スカイ(2020)
The Midnight Sky

【ストーリー】
2049年。急速に大気汚染が拡がり、地球は滅亡を目前にしていた。
人々が脱出に向け避難を開始する中、病に侵された科学者オーガスティン(ジョージ・クルーニー)は一人北極の展望台に残り、帰還途中の宇宙飛行士に地球には戻れないことを伝えようとする・・

リリー・ブルックスダルトン原作のSF小説『世界の終わりの天文台』の映画化です。
映画の中で急速に進む大気汚染の原因を明確に示唆してはいませんが、地球温暖化か核戦争か・・
いずれにしてもこのディストピアな近未来を絵空事とは思えない状況になってきました。

死にいく地球を捨てる日が来ることを予測し、地球外に人類が生息可能なコロニーを見つけることを研究してきた科学者がジョージ・クルーニー扮するオーガスティンです。

しかし研究に没頭するあまり、家族との繋がりを失ってしまった彼は今、滅びゆく地球上で孤独な最期を迎えようとしています。

そんな彼の最後の使命は、地球外のコロニーを探索する役割を担った宇宙船アイテルに、地球には戻れないことを伝えること。少しでもクリアな交信環境を求めブリザードの中探索するオーガスティン。
映画は彼の挑戦を、地球へ帰還途中の宇宙船の様子を交え描くつくりです。

地球の最後を描くSFですが、本作がいわゆるディザスター映画とは違うことは原題からも読み取れます。

ミッドナイト・スカイ(午前0時の空)はいわゆる新たな一日の始まりを意味していて
これは人類の明日を描く希望の映画でもあるのです。

f:id:puko3:20210112142526j:plain



劇中、オーガスティンは天文台に取り残されたと思しき少女アイリスと出会います。
彼女はオーガスティンの作り出した幻覚または妄想です。

朝食を摂ろうとシリアルを準備したらすでに食べかけのボウルがテーブルに置かれているシーンは、彼の精神がおそらくは治療で混乱していることを示唆しているし、
序盤、オーガスティンは避難中の夫人が娘を見失ったとパニックになっているのを目撃しており、そのことが頭にあったという見せ方でしょう。

少々ネタバレですが、フラッシュバックから明らかになるのは、少女はオーガスティンの娘であるということ。妊娠は間違いだったと告げられ、生まれたことも知らされなかった娘ですが、彼は偶然に幼い頃のアイリスを遠くから見かけていたのです。

オーガスティンが少女と食事中にグリーンピースで遊んだり、彼女を守るのは父親としての役割を追体験しているのでしょう。

オーガスティンを演じるクルーニーは、ゆっくりとした動きで孤独な老人を違和感なく演じています。

終盤、オーガスティンが宇宙船の乗組員と交信するシーンでは、彼がなぜ命をかけてまで宇宙船にメッセージを伝えたかったのかが明かされます。
オーガスティンとサリー(フェリシティ・ジョーンズ)の会話が感動的でね。
仕事に没頭し家族を失った孤独な科学者が最後に心の平安を得たことに安堵。
オーガスティンが一筋の涙を流すシーンに心が震え、「It's very nice to finally meet you.」のfinallyに涙腺崩壊でした。

宇宙空間での事故など、映像的な見どころはあるのですが
世間の評判がもう一つなのは、SFにしては作風が淡々としているからかなぁ。
説明も少なめなので、わかり難いと感じる人もいるかもしれないけれど
丹念に伏線が仕込まれ、全てが繋がるときに大きな感動があります。

原題の説明の中でも言及したように、これは人類の未来に希望を見出すお話。
道筋をつけたオーガスティンとフロンティアとして道を切り拓こうとするサリーの親子の物語であり、人との繋がりが希薄になりがちな今こそ観るべき映画だと思います。

 

映画データ
製作年:2020年
製作国:アメリ
監督:ジョージ・クルーニー
脚本:マーク・L・スミス
出演:ジョージ・クルーニー/イーサン・ペック/フェリシティ・ジョーンズ/カイリン・スプリンガル/カイル・チャンドラーデミアン・ビチルデヴィッド・オイェロウォティファニー・ブーン

【映画】誰が私を殺したか

映画ブロガー(一応)的今年の抱負のひとつは、メジャーであるなしに関わらず古い名作をたくさん観ること。
そんなわけで新春初投稿はこちら

f:id:puko3:20210104094704j:plain

誰が私を殺したか?(1964)
Dead Ringer

ライアン・ジェームズの原作を『何がジェーンに起こったか?』のベティ・デイヴィス主演で映画化したサスペンスドラマです。
監督は俳優出身のポール・ヘンリード。

【ストーリー】
双生児の姉妹イーディス(ベティ・デイヴィス)とマーガレット(ベティ・デイヴィス2役)は、マーガレットの夫フランクの葬儀で再会する。
かつてイーディスはフランクを愛していたが、マーガレットがフランクの子供を妊娠し、フランクは責任を取る形でマーガレットと結婚していた。
葬儀後マーガレットに誘われ邸宅を訪れるイーディス。マーガレットに子供のことを尋ねると幼くして死んだと応える。
しかし、帰りの車中、運転手に「マーガレットは一度も子供を産んでいない」と聞かされ、策略だったと知ったイーディスはマーガレットを呼び出し殺害。
自身が自殺を図ったように状況を整えたイーディスはマーガレットの服に着替え、マーガレットの乗ってきた車に乗り込み邸宅に戻るのだった。マーガレットに成りすまして。

 

【感想】

何がジェーンに起こったか?』(62)で妹と確執のある姉を怪演したベティ・デイヴィスが今回も姉妹のドロドロサスペンス劇場を盛り上げてくれます。いかにも二匹目のどじょうを狙った感がありますが、グロテスクな衝撃を伴った前作よりも本作の方が面白いです。

 

面白さの理由、まずはベティ・デイヴィスが確執のある双子の姉妹を一人二役で演じている点。髪も顔も同じながら、まとう空気の違う2人を演じわける演技力には、彼女にいびつなメイクも狂気も必要ないと思わせてくれますね。

f:id:puko3:20210104093503j:plain

モノクロが美しい撮影もいいんですよね。
序盤、二人一緒にいる場面ではマーガレットがベールで顔を覆っていることが多く、さもありなんと納得するんですが、2人の顔がしっかり見えるときには、両方デイヴィスなのに驚きました。この時代にどう撮影したんでしょう。
違和感なく編集したとしたら、その技術も大したもの。

 

妹を殺し屋敷に入ってからは、正体がバレないかと気をもませます。
屋敷でイーディスが顔のベールを初めてとる瞬間や、鍵のかかった金庫の扉をメイドの目の前で開けなければならないシチュエ―ションなど、デイヴィスの緊張の演技は勿論、戸惑う使用人の表情など、役者陣の演技、サスペンスフルな演出も秀逸です。

 

フランクの遺産を受け取る書類にサインするため、イーディスがマーガレットのサインを練習するシーンは『太陽がいっぱい』を思い出すところ。
結局短時間では習得できないと悟ったイーディスの行動には度肝を抜かれました。

f:id:puko3:20210104093547j:plain

おそらくはマーガレットが嫌い、部屋に近づくことも許さなかったであろう飼い犬が、イーディスにすぐになついてしまうのは、使用人たちに偽物と気づかれそうでひやりとさせると同時に、犬にも善人、悪人を見分けることができると感じさせます。

 

イーディスはマーガレットを殺した殺人犯ではあるけれど、真からの悪人ではないと思わせるのに一役買っていて、マーガレットのクズさ加減と凶悪性が明かされる頃には、完全にイーディスに共感&肩入れしてしまいます。

そして、もしも葬儀のあとマーガレットの屋敷に寄らず、偽装結婚の事実を知らずに済めば、マーガレットを殺すことはなかったのではないか
また、せめて殺人を決意するのが数日遅ければ、フランクの遺産の一部がイーディスに贈られ、バー経営の行き詰まりに自暴自棄になることもなかったかもしれない
あるいはホッブズ刑事の愛に気づいていたら、マーガレットへの憎しみも幾分和らいだのではないか・・などイーディスが罪を犯さずに済む道を選べなかったのかと考えずにはいられません。

 

しかし、人を殺めてしまった事実は覆らず、その罪から逃れることはできないというのがこういう映画の掟でしょう。坂道を転がり始めた運命はさらなる不運を身にまとい、やがてマーガレットの犯した罪まで背負うことになる皮肉。

 

どっちにしても殺人罪は逃れられない中、イーディスがマーガレットとして極刑を受け入れるのは、ホッブス刑事のために、彼の愛する「虫も殺せぬ優しい女性イーディス」として自身を葬りたいと思ったからかなぁ。

そして、すべて気づいていたかもしれないホッブスがなにも言わないのは、イーディスのその思いを受け止めたから。
堅実、誠実なホッブスを演じるカール・マルデンがいいんですよね。
殺伐とした映画になりがちな本作に優しさを与えていて素晴らしかった。

 

情念に突き動かされたクライムサスペンスと思いきや
孤独な中年男女のささやかな恋のドラマに最後は泣かされました。名作です。

 

 

 


映画データ

製作年:1964年
製作国:アメリ
監督:ポール・ヘンリード
脚本:アルバート・ビーチ/オスカー・ミラード
出演:ベティ・デイヴィスカール・マルデン/ピーター・ローフォード/ジョージ・マクレディ

あけましておめでとうございます

 

あけましておめでとうございます。

昨年は大変な年になってしまいました。
我が家も年末は高齢の義父が腎機能障害からの高カリウム血症で緊急入院しバタバタしましたが、30日に無事退院しホッとしているところです。

f:id:puko3:20210101110409j:image

暮れは大荒れの天気に見舞われましたが、今朝は海に小さな虹が。
数分後には大らかな姿を現し、気持ちが洗われる思いでした。

f:id:puko3:20210101110343j:image

 

先ほどまでの小雨もやみ、今は穏やかな陽気です。

日本国内は日々感染者が増え続け、変異ウィルスが登場したりとまだまだ予断は許しませんが、明けない夜はないと信じましょう。

新たな年が佳き一年となりますように。
今年もよろしくお願いいたします。

【映画】ペット・セメタリー(2019)

 

f:id:puko3:20201115155511j:plain

ペット・セメタリー(2019)

【あらすじ】
家族ともに田舎に越した医師ルイスの新居の裏には動物の墓地「ペット・セメタリー」があった。ある日、飼い猫チャーチが事故で死に、隣人ジャドがルイスをペット・セメタリーへと連れていく。
ルイスにより埋葬されたチャーチは翌朝一家の前に姿を現すが荒々しい気性に変貌していた。やがて誕生日を迎えた娘のエリーがトラックにはねられ死んでしまう。ルイスはある行動に出るが……。

スティーヴン・キングのベストセラー小説の再映画化です。

愛する家族を亡くした父親の思いが暴走する点が、先日書いた『レプリカズ』に共通すると思ったので観てみました。

1987年版の詳細は忘れてますが、今回のリメイク版では事故で死んでしまうのがゲイジではなく姉のエリーに改変されていますね。
まったく作品を知らない人にはネタバレになってしまうんですが、ルイスは娘を突然の事故で亡くし、オリジナルのゲイジにしたのと同じことをエリーにもするんですね。
すなわち、今回死の世界から蘇るのはエリー。

オリジナル版は幼いゲイジが蘇った後に邪悪な台詞を吐く姿に無理を感じたんですよね。勿論、死の世界から舞い戻った者たちは者たちは肉体は生前のままでも、中身(魂?)は邪悪な魔物と思えば『エクソシスト』がそうであったように、人間の血肉をまとった悪魔が何を語ろうとおかしくはないのかもしれない。
だけどやはり、幼い子供が死んでしまうのはあまりに悲しいので、エリーとバトンタッチしたのは良いと思う。(エリーも子供には変わりないんですが(汗))

ところがね、このエリー役の子役が驚くほどに演技上手で邪悪なのです。
不気味な表情と演出で、思いっきり怖さを盛り上げてくれるんですが、なにかが物足りないのです。

子供を亡くし、蘇らせることのリスクを知りつつも、再び我が子を抱きしめたい父親の哀しみは幼いゲイジだろうとお姉さんのエリーだろうと変わらないのかもしれない。
でも凶暴化したエリーに手をかけるのが、単純に「恐怖から」に思えてしまって、それだとオリジナルの「ダメならリセット」的な「親の身勝手さ」が薄れる気がしたんですよね。
あと、ゲイジに手をかけるのは、そうすることが父親としての義務とも思えたのだけど、そういうのも今回はあまり感じなかった。

とはいえ、ちょっとJホラーっぽい演出もあって、ホラー耐性低めの私には十分怖かったし、恐怖演出も巧みでホラーとしては上出来だと思う。
また、エリーを蘇りの対象にすることで、死への思いや立ち向き方みたいなものが深く表現されたと感じる部分もありますね。
自分の死を自覚していたり、姉の死にトラウマを持つ母親レイチェルの深層心理を吐露させたりは、幼いゲイジではできなかったかもしれないですから。

ラストシーンには賛否があるようだけど、ハッピーゾンビ一家誕生的な緩い感じは好きですよ。
あと、ジャドがジョン・リスゴーだったのは最後まで気づかなかったわ(汗)