【映画】母の残像
母の残像(2015) ノルウェー/フランス/デンマーク/アメリカ
原題:Louder Than Bombs
監督:ヨアキム・トリアー
脚本:エスキル・フォクト/ヨアキム・トリアー
出演:ガブリエル・バーン/ジェシー・アイゼンバーグ/イザベル・ユペール/デヴィン・ドルイド /エイミー・ライアン
レイチェル・ブロズナハン
日本公開:2016/11/26
【感想】
ラース・フォン・トリアーを叔父に持つノルウェーの精鋭ヨアキム・トリアーによる家族ドラマです。
英国男優50人斬り、今日は渋いところでガブリエル・バーンいきましょう。
ガブリエル・バーン演じるジーンは戦争写真家として活躍した妻イザベル(イザベル・ユペール)を3年前に交通事故で亡くしている。
イザベルの回顧展が開かれることになり、長男ジョナ(ジェシー・アイゼンバーグ)も帰省し、親子3人が顔をそろえた。
ジーンはこの機に次男のコンラッド(デヴィン・ドルイド)に、イザベルの死の真相を話すことを決心するが、心を閉ざしがちなコンラッドと向き合う機会を持てないでいる・・・
監督の前作『オスロ、8月31日』はルイ・マルの『鬼火』にインスパイアされて撮ったという、自殺を決めた青年の2日間を描く繊細な作品でした。
本作は「イザベルの死は自殺の可能性が高い」ことを軸に、そこに至るイザベルの思いや、残された家族の3年間を浮き彫りにしていく作りで、登場人物は違えど前作の続編に近い形ではないかと思います。
今回もイザベルの虚無感が画面いっぱいに広がるのだけど、前作と違うのは虚無感を生むきっかけや原因が少しずつ差し込まれていること。
理解ある振りをしすぎて無関心と取られたり、すれ違う夫婦が痛々しい。
でも、こういうのが亀裂を生むと気づけば、自身を振り返ることもできるんですよね。
ゲームや幻想に没頭し、死にとりつかれたように見える次男コンラッドが初めて涙をこぼすシーンは印象的です。
母の姿を重ねていた同級生のメラニーの生々しさに触れたあの瞬間、彼は母の幻影から解き放たれ、生を実感したのではないか。
コンラッド役のデヴィン・ドルイドは思春期の危うさと成長をみずみずしく演じ、演技派の共演者の中にあって一番の存在感でした。
一見何の問題もないように見えたジョナも壊れかけている。
そんな一家が集い、言葉を交わし合うことで、何かが変わり始める様子もあたたかい。
いい映画でした
しかし!
個人的にはラストシーンに2つの思いがよぎったんだよね。
そこネタバレになるので未見の方はご注意ください。
ラストは、出産後間もない妻のもとに戻ることをなんとなく躊躇するジョナを送って
ジーンの運転で親子3人ジョナの家に向かうシーン
コンラッドの隣にはイザベル(亡霊)。コンラッドはその肩に身を預け眠りに落ちる。
これは父子の中で何かが変わり始める(絆を取り戻す)あたたかいシーンに違いないんですが
問題はイザベルの表情です。
息子の成長を見守り安堵する母親のそれとはちと違う
何か影があるんですよね、ユペールさま!!(笑)
この母親、前にも運転中居眠りしかけてる夫を黙認していたことがあって
幸い事故にはならなかったけど「一緒に死ぬなら本望」な人だったわけですよ。
ならばイザベルはコンラッドの成長を素直に喜んでいるだろうか
もしかして彼女は息子たちが死を選ぶことを望んでいたんじゃないか と
そんな思いがよぎってしまった。
実際、ヨアキム監督の次なる新作はスーパーナチュラルなものになる様子。
次はノルウェーでの撮影となるようで、本作とのつながりはないかもだけど
一つの事象を違った視点で掘り下げるような監督の作品展開は非常に興味深いですよ。