しまんちゅシネマ

映画ノート

ベン・イズ・バック

ベン・イズ・バック(2018)アメリ 

Ben Is Back 

 

【あらすじ】

クリスマス・イヴの朝。19歳のベン・バーンズが薬物依存症の治療のために入所していた施設を抜け出し、実家に戻ってきた。母親のホリーは笑顔で迎え入れるが・・・。(allcinemaより)

 

【感想】

ジュリア・ロバーツが薬物中毒の息子の更生を信じる母親を熱演して話題になったホームドラマ。監督は『エイプリルの七面鳥』のピーター・ヘッジズ

薬物中毒の息子ベンを演じたルーカス・ヘッジズは監督の実の息子だったんですね。

 

若者の薬物中毒映画はいくつか観てきたけれど、本作のリアリティは凄いものがある。リアリティと言っても中毒患者役のルーカス君が激ヤセしたとか、ヘベレケ演技を見せるとか、そういうんじゃない。

 

薬物中毒になった理由や、中毒になったベンの背負ってきたものや、ディーラとの関係、家族に及ぼす影響などが実に赤裸々に描かれている。しかも、それをクリスマス・イヴから翌朝にかけてのほぼ一日の出来事の中で見せているのが凄い。

 

家族が留守の間に飼い犬が行方不明になり、ベンが心当たりを探し始めるあたりからは緊張の連続。ベンが戻ってそわそわするのは家族だけじゃないのだということ、中毒から抜け出すことの難しさを改めて知ることになります。

 

ルーカス・ヘッジズは安定のうまさ。

マンチェスター・バイ・ザ・シー』で助演男優賞にノミネートされたのはまぐれじゃなかっと思わせてくれる。

でも本作では何と言っても母親役のジュリア・ロバーツがいい。

何があっても息子を更生させる、絶対に助けるとの強い思いに心を揺すぶられるのですよ。再婚家庭でもあって、家族に迷惑をかけたくないとの思いもリアル。

でも最後に夫に頼ることができたのは良かった。

 

タイトルはダブルミーニングだったんだな。

 

 

疑惑に抱かれて

 

疑惑に抱かれて(1991)アメリカ 

Under Suspicion 

 

【あらすじ】

トニー・アローン ( リーアム・ニーソン ) は元警官の私立探偵。
自分の妻を浮気相手に仕立てて、浮気現場をでっちあげる仕事をしていた。
その日もホテルに浮気現場の写真を撮りに行くと、そこには妻と依頼人の死体があった・・・。(Amazonより)

 

【感想】

リーアム・ニーソン主演の未公開クライム・サスペンスということで食指が動きました。監督/脚本にサイモン・ムーア。

 

リーアム演じるトニーは容疑者の妻ヘイゼルといい仲になり、張り込み先の邸宅で情事にふけっていたところ帰宅した容疑者に銃口を向けられる。

かろうじて逃げることができたものの、警察官の仲間が撃たれ死んでしまう。

 

警察をやめ、しがない私立探偵に成り下がったトニーは、妻を浮気相手に仕立て浮気の現場写真をでっちあげる仕事でかろうじて生計を立てている。

ところがある日、いつものようにでっち上げの浮気現場を撮影するため訪ねたホテルの一室で、トニーは依頼者と妻の死体を発見するのだった。

 

誰が依頼者と妻ヘイゼルを殺したのか。

殺された依頼者は、実は有名な画家だったことが分かり

トニーにも疑惑の目が向けられるものの、トニーは容疑を全面否定。

他の容疑者として、画家の妻と愛人アンジェリーナ(ローラ・サン・ジャコモ)が浮上。

自身の容疑を晴らしたいトニーは、愛人の犯行を疑い接近する。

しかし、美しいアンジェリーナに魅せられ、またしてもベッドイン・・

と、二―ソン演じるトニーの色ボケダメ男の悪あがきを描くわけです。

 

 

↑その帽子は河童の変装にしか見えませんからw

 

そもそもね、色ボケではあってもニーソンそんな悪者に見えません。

なのに決定的な証拠がないまま、犯人にされていくさまには憤りさえ覚えます。

死刑執行が迫る中、なんとかならないかと手に汗握ってしまうんですが・・

ところどころ「ん?」と思うところが出てきて、何気にグレイなのですよニーソンさんが!

 

そんなわけで

ネタバレはしないでおきますが、グレイゾーンをチラ見させつつ、最後まで犯人が分からない展開は大いに楽しめました。

 

ケネス・クラナム演じるフランク刑事はトニーの唯一の友人。

元同僚を色ボケから死なせてしまったことで警察仲間から総スカンを食うトニーだったが、フランクだけは、なんとかトニーの容疑を晴らそうと奮闘。

終盤の鬼気迫る活躍は主役を食うほどでしたが、途中から金田一シリーズの等々力警部に見えて仕方なかった。

「よしっ わかった!」を期待したのは私だけかな(笑)

 

サンセット大通り

 

サンセット大通り(1950)アメリカ 

Sunset Boulevard

 

【あらすじ】

借金取りに追われていた売れない脚本家のジョーは、サンセット大通りに建つ一軒の寂れた邸宅に逃げ込む。そこは、サイレント映画時代の伝説的女優ノーマ・デズモンドの住まいだった。そして、かつての栄光を取り戻すべく銀幕への復帰を目指す彼女は、ジョーに主演作品の脚本を住み込みで執筆させることに。寝食にありつけるとあってこの依頼を引き受けたジョー。しかし、仕事はおろか私生活まで束縛され・・(allcinemaより)

 

【感想】

売れない脚本家ジョーにウィリアム・ホールデン

映画は銃殺されたジョーが屋敷のプールに浮かんでいるところから始まり、そこから半年ほどさかのぼります。

借金取りに追われたジョーが偶然ノーマの屋敷に逃げ込み、脚本の手直しをするゴーストライターとして奇妙な共同生活を始めるわけですが、彼がすんなり屋敷に通されたのは、ペットの猿の埋葬に呼ばれた葬儀屋と間違われたからという設定が、まず不吉で面白いですよね。

 

グロリア・スワンソン演じるノーマ・デズモンドはサイレント時代の大女優ですが、時代はトーキー映画へと移っていて、すでに50歳を超えたノーマは化石のような存在。そのノーマがハリウッド復帰を目論み、自ら脚本を書いた『サロメ』で十代のお姫様を演じようというのだから正気の沙汰ではありません。しかもノーマはジョーに執心し束縛し始めることから、観客はジョーの身に起きる悲劇を予測しながら、ひたすら見守ることになるわけです。

 

殺人事件の顛末を先に見せられても十分楽しめるほどに、ノワールとしてとしての出来は完璧。しかし、本作の魅力はそれだけにとどまらないんですね。

なんたってタイトルがサンセット大通りですから、これはもう主役はハリウッドでしょう。

スワンソンの迫力の演技が強烈で、ともすればノーマの狂気のみに焦点が当てられがちだけど、スタジオの撮影風景を見せてみたり、それこそレジェンドのセシル・B・デミルご本人を登場させたりと、この映画にはハリウッドへの憧れがたくさん詰め込まれています。

 

スタジオで働く人たちがスポットライトが当たったノーマに向ける夢見るようなまなざしは、現在のノーマにというよりも、サイレント映画のレジェンドへの尊敬を表したもの。しかしスポットライトが外れると、夢から覚めたように仕事に戻る姿が印象的で、ハリウッドの光と影の両方を端的に見せる演出と言えるでしょうか。

 

ノーマのように栄光を手にするスターがいれば、ジョーのように鳴かず飛ばずで消えていく映画人も五万といる。

ノーマに囲われ、いつしか脚本を書くことさえしなくなっていたジョーに映画への情熱を取り戻させたのはベティでした。

キャラクターのアイディアを出し合う二人の掛け合いシーンは活力にあふれワクワクさせられます。

 

終盤、ジョーがベティに全てを明かし別れるのは、ノーマの狂気からベティを守るためだったでしょう。

成功を夢見る若いエネルギーが、新しいアイディアで活気を生み出すから(少なくともこの時代の)ハリウッドは輝きを放ち、感動を与えてくれる。

ベティがハリウッドの未来を担う若い力の象徴とすれば、そんなベティを救うところに監督の希望が透けて見える気がするのです。

 

面白いキャラクターで存在感を放ったのはノーマの執事マックスを演じたエリッヒ・フォン・シュトロハイム。劇中明かされるマックスの過去にも驚くのだけど、シュトロハイムご本人もD・W・グリフィスセシル・B・デミルとともに「サイレント映画の三大巨匠」と呼ばれることもある(wikiより)というからダブルでビックリ。

どおりでカメラを操るクライマックスのシーンがサマになってたわ。 
 

『アーティスト』『ラ・ラ・ランド』にも影響を与えたに違いない

ビリー・ワイルダーの大傑作ですね。

コッポラの胡蝶の夢

コッポラの胡蝶の夢(2007)アメリカ / ドイツ / イタリア / フランス / ルーマニア

Youth Without Youth

 

【あらすじ】

1938年、ルーマニア。年老いた言語学者ドミニク・マテイは、最愛の女性ラウラと別れてまで人生の全てを捧げてきた研究が未完に終わることに絶望していた。自殺するためブカレストへとやってくるが突然雷に撃たれ、全身にやけどを負って病院に運ばれる。

 

 

【感想】

ミルチャ・エリアーデの『若さなき若さ』を原作として、コッポラが『レインメーカー』以来10年ぶりにメガホンをとったファンタジー・ドラマです。

 

コッポラは娘ソフィアの『ロスト・イン・トランスレーション』を観て、小さな映画を撮るのもいいなと思ったんだそうで、本作は『ゴッドファーザー』みたいな超絶大作でなく、『地獄の黙示録』ほどお金もかけてません。

 

主人公が雷に撃たれて以来若返り始めるという物語は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』や『アデライン、100年目の恋』を彷彿とさせ、なかなかにファンタジーです。

しかもカルマや輪廻、ナチスや核戦争など、出てくる概念は結構スケールが大きく、お金をかけなくてもこういう映画を撮れるんだと認識を新たにしました。

 

 

主人公ドミニクを演じるティム・ロスは、背中を丸めて歩く姿がいかにも老人。

老けメイク以上に演技に感心します。

若返ったドミニクには何故か分身が寄り添うようになり、特殊能力まで身につけている。やがて彼は別れた婚約者ラウラに瓜二つの女性ヴェロニカと出会い、何故か前世に遡って古の言語を喋り出すヴェロニカのおかげで言語の研究も進み・・と、なんとも壮大なのような物語が紡がれるんですね。

 

と言えばタイトルの「胡蝶の夢」とは荘子の思想を表す説話「胡蝶の夢」からきているようで、これは「夢が現実か、現実が夢なのか?しかし、そんなことはどちらでもよいことだ」といった内容だとか。それがモチーフということで、実際映画の中で起きてることは現実と考えるにはあまりに奇想天外。けれどドミニクが雷を受けてからかなり歳をとってから死んだことや、偽名のパスポートを所有していたラストシーンを思うと、これはやはり現実だったのか?となるわけです。

 

なので荘子の説話を受け入れたうえでこの映画を語るとすれば、現実か夢かはたいしたことではないと言うべきでしょう。

現実であれ、夢であれ、研究に没頭するあまり不幸な老後を送ることになったドミニクが、生涯愛すると誓ったラウラに瓜二つのヴェロニカと出会い、彼女を救うため研究の完成を諦めたことは、彼にとっては幸せな選択だったということ。

研究は完成をみなかったけれど、誰の人生にも限りがあり、ドミニクはできる限りを尽くしたのだから、悔いる必要はないと思うのです。

 

だから切なくもあるけれど、後味は悪くない

ファンタジーを交えた、壮大なロマンス映画であり、人間賛歌だと思いました。

 

 

ラウラ、ヴェロニカを演じたアレクサンドラ・マリア・ララは美しくて好きな女優さん。画像検索していてやたら『コントロール』のサム・ライリーが出てくると思ったら、2人は2009年に結婚してたのね。知らなかったぁ。

ドミニクを助けることになった医師を演じたブルーノ・ガンツも安定の演技で映画を支えています。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/コッポラの胡蝶の夢

ロケットマン

エルトン・ジョンの半生をミュージカル仕込みで描く伝記映画です。

北の将軍様のお話じゃないですよ~。

 

 

ロケットマン(2019)イギリス

Rocketman

 

【あらすじ】

ロンドン郊外で不仲な両親のもとに生まれ、愛のない家庭に育った少年時代のエルトン・ジョン。冴えない日々を送る中、音楽的な才能を見出されて国立音楽院に入学する。やがてロックに傾倒していったエルトンは、レコード会社の公募に応募し、そこで同じ応募者のバーニー・トーピンと運命的に出会い、以来2人は作曲家・作詞家コンビとして幾多の名曲を生み出してく。一気にスターダムへと駆け上がっていくエルトンだったが…。

                                  (allcinema)

 

 

【感想】

映画はデビルのような衣装をまとったエルトン・ジョンが依存症患者会登場するシーンから始まります。エルトンを演じるのは体重を増やして臨んだであろうタロン・エガートン。映画は彼の少年時代へと遡り、愛のない家庭で育ったレジーの孤独と傷心を浮き彫りにするとともに、音楽の才能を開花させていくさまを見せる作り。

 

王立音楽院に入学したレジー少年が先生の弾いていた「トルコ行進曲」を即興で弾く場面は、エルトンが本当の天才だと教えてくれるし、オーケストラを指揮する妄想シーンなど音楽の見せ方にワクワクします。

彼の興味はやがてロックへとシフトし、リーゼント姿で大人顔負けのパフォーマンスを見せるのも楽しい。

 

少年から青年へと成長し、タロン君登場で魅せるミュージカルシーンでの躍動感も最高。吹き替えでない歌には彼の資質を感じるところで、エルトン役に抜擢されたことにも納得。

 

やがて作詞家バーニー・トーピン(ジェイミー・ベルと出会い、スターダムを駆け上がるものの、ゲイのエルトンは様々なシーンで傷つき、薬物にも依存していくんですね。

 

孤独な心を派手なパフォーマンスや衣装で埋めていくかのようなエルトンには切なさを感じるし、エガートンの繊細な演技もいい。

ただその元凶となる人間関係のドラマがおざなりというか・・、

人とのすれ違いを幼少期の愛情不足からと片付けるには無理があるというもので、彼の人間性に触れるのであればもう少しドラマを掘り下げてもいいのかなと思う。冒頭の依存患者の会で彼が言う「治りたい」という言葉に見合うドラマも浅かった。

 

心に残ったのは「ユア・ソング」の誕生シーン。

バーニーとは音楽で結ばれていた二人でしたが、もしもバーニーがエルトンの全てを受け入れていたら、エルトンの人生は少し変わっていたのかなと思ってみたり。

でも、全体に「人のせい」にしてしまってる部分は気になるところでした。

 

そんなわけで、音楽シーンの多くは楽しめたのだけど、前半のワクワク感が後半そがれていったというのが正直なところ。

勿論圧巻のパフォーマンスを劇場鑑賞していれば違った感想になっていたでしょう。

エルトンの活躍をよく知っていれば、コンサートでの衣装のシンクロ具合や、私生活のエピソードなど退屈するところはなかったのかもしれないですしね。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ロケットマン_(映画)