しまんちゅシネマ

映画ノート

コッポラの胡蝶の夢

コッポラの胡蝶の夢(2007)アメリカ / ドイツ / イタリア / フランス / ルーマニア

Youth Without Youth

 

【あらすじ】

1938年、ルーマニア。年老いた言語学者ドミニク・マテイは、最愛の女性ラウラと別れてまで人生の全てを捧げてきた研究が未完に終わることに絶望していた。自殺するためブカレストへとやってくるが突然雷に撃たれ、全身にやけどを負って病院に運ばれる。

 

 

【感想】

ミルチャ・エリアーデの『若さなき若さ』を原作として、コッポラが『レインメーカー』以来10年ぶりにメガホンをとったファンタジー・ドラマです。

 

コッポラは娘ソフィアの『ロスト・イン・トランスレーション』を観て、小さな映画を撮るのもいいなと思ったんだそうで、本作は『ゴッドファーザー』みたいな超絶大作でなく、『地獄の黙示録』ほどお金もかけてません。

 

主人公が雷に撃たれて以来若返り始めるという物語は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』や『アデライン、100年目の恋』を彷彿とさせ、なかなかにファンタジーです。

しかもカルマや輪廻、ナチスや核戦争など、出てくる概念は結構スケールが大きく、お金をかけなくてもこういう映画を撮れるんだと認識を新たにしました。

 

 

主人公ドミニクを演じるティム・ロスは、背中を丸めて歩く姿がいかにも老人。

老けメイク以上に演技に感心します。

若返ったドミニクには何故か分身が寄り添うようになり、特殊能力まで身につけている。やがて彼は別れた婚約者ラウラに瓜二つの女性ヴェロニカと出会い、何故か前世に遡って古の言語を喋り出すヴェロニカのおかげで言語の研究も進み・・と、なんとも壮大なのような物語が紡がれるんですね。

 

と言えばタイトルの「胡蝶の夢」とは荘子の思想を表す説話「胡蝶の夢」からきているようで、これは「夢が現実か、現実が夢なのか?しかし、そんなことはどちらでもよいことだ」といった内容だとか。それがモチーフということで、実際映画の中で起きてることは現実と考えるにはあまりに奇想天外。けれどドミニクが雷を受けてからかなり歳をとってから死んだことや、偽名のパスポートを所有していたラストシーンを思うと、これはやはり現実だったのか?となるわけです。

 

なので荘子の説話を受け入れたうえでこの映画を語るとすれば、現実か夢かはたいしたことではないと言うべきでしょう。

現実であれ、夢であれ、研究に没頭するあまり不幸な老後を送ることになったドミニクが、生涯愛すると誓ったラウラに瓜二つのヴェロニカと出会い、彼女を救うため研究の完成を諦めたことは、彼にとっては幸せな選択だったということ。

研究は完成をみなかったけれど、誰の人生にも限りがあり、ドミニクはできる限りを尽くしたのだから、悔いる必要はないと思うのです。

 

だから切なくもあるけれど、後味は悪くない

ファンタジーを交えた、壮大なロマンス映画であり、人間賛歌だと思いました。

 

 

ラウラ、ヴェロニカを演じたアレクサンドラ・マリア・ララは美しくて好きな女優さん。画像検索していてやたら『コントロール』のサム・ライリーが出てくると思ったら、2人は2009年に結婚してたのね。知らなかったぁ。

ドミニクを助けることになった医師を演じたブルーノ・ガンツも安定の演技で映画を支えています。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/コッポラの胡蝶の夢