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映画ノート

ボーフォート -レバノンからの撤退-

  グランプリおめでとう! サミュエル・オマス監督『レバノン

第66回ヴェネチア映画祭 グランプリに輝いたのはイスラエル、フランス、ドイツ合作の『レバノン』です。
イスラエル映画は昨年のオスカー前哨戦を賑わした『戦場でワルツを』はじめ、戦争を背景にした秀作映画が出て来ています。

 

今日は同じくイスラエル製作で レバノンを扱ったこちらの作品を

2007年(イスラエル)監督:ヨセフ・シダー出演:オシュリ・コーエン/イタイ・ティラン/オハド・クノラー/アミ・ワインバーグ/アロン・アブトゥブール

  ヴェネチア映画祭特集 10本目(最終日)イスラエル映画『ボーフォート -レバノンからの撤退-』

■感想
ボーフォートというのはレバノンの南にある山岳地帯で、小高い山の頂上には12世紀に十字軍が建てた要塞があります。
1982年にレバノン侵攻を果たしたイスラエル軍は、なんと18年もの間、この要塞を拠点とし、駐留していたんですね。

 

この映画で描かれるのは2000年。
イスラムシーア派民兵組織・ヒズボラからの攻撃により多くの被害を出し、レバノン駐留への国内批判も高まる中
イスラエル政府はついにレバノンからの撤退を決めます。

 

本作はボーフォード砦の撤退までの数日間を兵士の目線で描き、戦争の虚しさを訴えた作品です。

 

ここでは敵の姿は映し出されません。
散発的に爆撃を加えられるのを、監視塔で監視し、爆弾の飛来と着弾を淡々とアナウンスし
兵士たちは身をかがめて耐えるのみ。

 

撤退ムードが高まる中、イスラエルに続く唯一の道路脇に地雷がしかけられ
軍から爆弾処理班の兵士が派遣されます。



慣れない砦で迷ってしまった爆弾処理のヴィブズは、交替で監視中の兵士二人と遭遇
「道に迷ったのか。君は爆弾処理班には間違いで入ってしまったのか?」
「間違いみたいなもんだけど、後悔はしてないよ。ここで何をしてるんだ?」
「山を見張ってるんだよ、逃げてなくならないかってね」
「ここには間違えて来てしまったのか?」
「希望して来たんだ。だけどそれが間違いだった」

 

そんな会話がオフビートに交わされ、ボーフォートに駐留する兵士たちの虚無感が明らかになるんですね。

 

そんな兵士を取りまとめる司令官の任務にあたるのが主人公のリラズ(オシュリ・コーエン)。
撤退も近い中、次々と仲間を爆撃で失う焦燥感、中間管理者として、兵士と軍の狭間に立たされる苦悩は
見ていて本当に辛いものがあります。


この映画はテンポとしてはかなり遅いのですが、その分爆弾処理に当たるシーンの緊張や
兵士の葛藤がビシバシ伝わるんですね。

 

終盤、いよいよ撤退の時間が近づき、ボーフォートの砦を爆破して撤退することになるのですが
砦中に爆弾を仕掛け、12人の兵士を残し、脱出するのみの段階になって、軍から「ちょっと待て」と指示される。
何ソレ~!!@@

 

爆撃を受けたらひとたまりも無いワケで、この緊張と言ったら、そこらのサスペンス映画の比じゃない。
軍に翻弄される若者が、「政治のことは話すな」と言うシーンも印象的で、
何が正しいのか考えていたら、自分に虚しさが増すばかり。
何も考えずにただ時間を過ごすしかないという兵士の葛藤、これは戦争を闘う多くの兵士に通じるものかもしれませんね。

 

イスラエル軍レバノン侵攻までの過程や、敵の詳細、またその後レバノンに再び侵攻したことなど何も描かれませんので
ある程度の知識を持って観た方がいい映画でしょう。戦争のことを知ろうと思って観るにも向きません。

 

でも兵士の苦悩を通じて戦争について考えさせられるのは確かで、これは面白かったです。

 

2007年ベルリン映画祭銀熊賞受賞、アカデミー外国語映画賞ノミネートの作品です。

 

★★★★☆



さてさて、9月も終わり、ヴェネチア映画祭特集では10本達成、金獅子賞作品も5本の黒塗り達成です。