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映画ノート

赤い影

1973年(イギリス/イタリア)監督:ニコラス・ローグ原作:ダフネ・デュ・モーリア出演:ドナルド・サザーランドジュリー・クリスティ/ヒラリー・メイソン/クレリア・マタニア   マッシモ・セラート/アンドレア・パリジ
■感想
ヒッチコックの『レベッカ』『鳥』などのダフネ・デュ・モーリアの原作を元に、ニコラス・ローグが描く
オカルト風味のミステリーです。
監督のニコラス・ローグは『アラビアのロレンス』『華氏451』などの撮影で活躍した方で
映像の魔術師と異名をとるらしい。

 

暖かな印象のリビングで、子供の素朴な質問の答を探し、調べものをする妻ローラ(ジュリー・クリスティ
傍らで教会内を映したスライドを映し出す夫ジョン(ドナルド・サザーランド)の姿が描かれる
一枚のスライドに映った赤いマントの少女らしき姿に目を止めた瞬間、ジョンは誤ってスライドに水をこぼす。
すると不思議なことに、スライドの赤いマントの部分から血のような赤い色が溢れだした。


瞬間何かを感じたジョンは慌てて外に飛び出す。
妹と一緒に遊んでいたはずの息子が泣きながら走ってくる
赤いレインコートを着て池で遊んでいた娘の姿を追って、冷たい水に飛び込むジョン しかし娘は・・・



 

この冒頭の出来事を、説明なく、しかも殆ど台詞もないままに見せ切ると、場面は一転
愛する娘を失った夫婦は、考古学者である夫の仕事のためにヴェニスに滞在中。
レストランで食事中、出会った老姉妹の一人、盲目の霊媒者は、ジョンとローラの間には
赤いレインコートの少女が微笑む姿が見えると・・・。

 

そんなある日、ジョンは娘の後ろ姿にも似た赤いマントの子供らしき姿を目撃しその姿を追うことに
水の都ヴェニス、美しいけれど少し淋しげな街並を一歩入れば迷路のように入り組み光を遮る・・・
方向音痴の私など、一度迷い込んだら一生出て来れないかも、、そんな不安にかられます

 

ジョンが追う赤いマントの正体は何なのか
霊媒者の「ここにいてはいけない。ヴェニスを出なさい」という言葉は何を意味するのか

 

どうやらジョンには不思議な力が備わっているようだということの他あえて説明を省いた物語に、
前半は、訳が分からないままに、ジョンと同じ不安を抱えながら迷走することになるのですが、
全てが収束されるラストシーンがとにかく秀逸で、これは鳥肌が立つ思いです。

 

全てが収束・・・と書いたけれど、謎のすべてが埋まる訳ではなく・・・
ヴェニスに来ることは運命によって決められていたのか、
赤い影は彼を運命に導く存在だったのか。私の中で答えは出ません。

 

それでも、娘を救うことが出来なかったジョンの悲しみが、彩度を落としたヴェニスの映像に重なり
赤い差し色の衝撃がひたすらもの哀しい余韻を残しました。

 

途中で繰り広げられる夫婦のベッドシーンが延々と続き、最初は長いと感じたのだけど
いやらしさがある訳ではなく、夫婦が深く愛し、信頼しあっていると感じるものだったんですね。
終ってみると、この映画にはあのシーンは必要だったな、そう思いました。

 

ところで最近『エスター』がDVDリリースされたようですが、
HKさんによると本作は『エスター』の元ネタに違いないとのこと!
観終わってみればなるほどです。って、HKさんに説明を受けないとわからなかったくせにですけど(笑)

 

皆さんもぜひご確認あれ。

 

勿論元ネタ関係なしに観てもアーティスティックで面白い作品でしたよ。



★★★★☆