夜を殺した女<未>
今日はドヌーヴ作品から、86年製作の日本未公開映画をご紹介。
ドヌーヴが逃亡中の犯罪者とつかの間の情事に溺れる人妻を演じる サスペンスドラマです。
夜を殺した女(1986)
監督: アンドレ・テシネ 出演: カトリーヌ・ドヌーヴ/ヴィクトル・ラヌー/ヴァデック・スタンチャック
ニコラ・ジロディ/ダニエル・ダリュー/ジャン=クロード・アドラン
リリ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は夫と離れ、小さな田舎町で息子のトーマと暮らしていた。
そんなある日、彼女の経営するダンス・クラブにひとりの男が現れる。
男の名はマルタン、脱獄し仲間のリュックと逃亡中の犯罪者。マルタンはリリの美しさに魅かれ、
彼女もまたマルタンに魅かれてゆく。
名匠と紹介しながら、監督作品は一本も見たことなかったのですが、
ドヌーヴ様とは『海辺のホテルにて』『夜の子供たち』などでもコンビを組んでるとのこと。
本作は冒頭、リリの息子13歳のトーマが何ものかに襲われ翌日までに金を持ってこいと脅されます。
それが脱獄したマルタンとリュックだとわかってきますが、トーマは家族にも言えないまま、
何とかお金を作り二人に渡すものの凶悪なリュックはトーマを殺そうとし、マルタンと仲間割れとなります。
そんなマルタンがリリと出会い、惹かれあってしまうというお話なんですね。
誰にも言うなと脅され、一人恐怖の中葛藤する息子トーマ。
そんなトーマの葛藤を知りながら、情事に走る母親・・・。
途中までは、自分の結婚の失敗も母親のせいにして、
どこか地に足が着いていないドヌーヴに共感できず
一家で一番まともなのは、バラバラな家族を何とかまとめようと頑張る
しっかりもののおばあちゃんだけだなぁ などと思いながら観続けるのですが
最後になって、ドヌーヴの心の闇は母親の支配によるものだったこともわかり
思わぬ感慨を呼ぶのですよ。
一見すると、全て悪い方向に向かってしまう不条理なドラマに見えるのだけど
観終わった印象は、意外に清々しいのは、
これがドヌーヴの心の再生を描く作品だったと思えるから。
92分というコンパクトなつくりなのに、無駄のない演出で
登場人物の思いのたけを描ききる監督の手腕に恐れ入りました。
一夜の情事を過ごす家の鍵を渡され、雨の中取り落とすマルタン。
それだけのシーンから、彼は招かれざる客、あるいは行ってはいけない場所であることを思わせたり
マルタンの仲間の女のサングラスが、後に涙を隠すためのアイテムだったかと思えば
その予想をはるかに超える使い方をしていたりと、
とにかく小物使いの上手さにもうなりました。さすが名匠ですね。
DVDにもなっていないのは本当に残念。面白いですよ。