しまんちゅシネマ

映画ノート

夜を殺した女<未>

今日はドヌーヴ作品から、86年製作の日本未公開映画をご紹介。
ドヌーヴが逃亡中の犯罪者とつかの間の情事に溺れる人妻を演じる サスペンスドラマです。

blog_import_566ba125d221d.jpeg
夜を殺した女(1986) 
監督: アンドレ・テシネ 出演: カトリーヌ・ドヌーヴ/ヴィクトル・ラヌー/ヴァデック・スタンチャック
    ニコラ・ジロディ/ダニエル・ダリュー/ジャン=クロード・アドラン

リリ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は夫と離れ、小さな田舎町で息子のトーマと暮らしていた。
そんなある日、彼女の経営するダンス・クラブにひとりの男が現れる。
男の名はマルタン、脱獄し仲間のリュックと逃亡中の犯罪者。マルタンはリリの美しさに魅かれ、
彼女もまたマルタンに魅かれてゆく。

名匠と紹介しながら、監督作品は一本も見たことなかったのですが、
ドヌーヴ様とは『海辺のホテルにて』『夜の子供たち』などでもコンビを組んでるとのこと。

本作は冒頭、リリの息子13歳のトーマが何ものかに襲われ翌日までに金を持ってこいと脅されます。
それが脱獄したマルタンとリュックだとわかってきますが、トーマは家族にも言えないまま、
何とかお金を作り二人に渡すものの凶悪なリュックはトーマを殺そうとし、マルタンと仲間割れとなります。
そんなマルタンがリリと出会い、惹かれあってしまうというお話なんですね。

blog_import_566ba1290c8f2.jpeg

誰にも言うなと脅され、一人恐怖の中葛藤する息子トーマ。
そんなトーマの葛藤を知りながら、情事に走る母親・・・。
途中までは、自分の結婚の失敗も母親のせいにして、
どこか地に足が着いていないドヌーヴに共感できず
一家で一番まともなのは、バラバラな家族を何とかまとめようと頑張る
しっかりもののおばあちゃんだけだなぁ などと思いながら観続けるのですが
最後になって、ドヌーヴの心の闇は母親の支配によるものだったこともわかり
思わぬ感慨を呼ぶのですよ。

一見すると、全て悪い方向に向かってしまう不条理なドラマに見えるのだけど
観終わった印象は、意外に清々しいのは、
これがドヌーヴの心の再生を描く作品だったと思えるから。
92分というコンパクトなつくりなのに、無駄のない演出で
登場人物の思いのたけを描ききる監督の手腕に恐れ入りました。

一夜の情事を過ごす家の鍵を渡され、雨の中取り落とすマルタン
それだけのシーンから、彼は招かれざる客、あるいは行ってはいけない場所であることを思わせたり
マルタンの仲間の女のサングラスが、後に涙を隠すためのアイテムだったかと思えば
その予想をはるかに超える使い方をしていたりと、
とにかく小物使いの上手さにもうなりました。さすが名匠ですね。

DVDにもなっていないのは本当に残念。面白いですよ。