しまんちゅシネマ

映画ノート

マーサ、あるいはマーシー・メイ





映画ファンなら、ポランスキー監督の妊娠8ヶ月の妻シャロン・テートが、
チャールズ・マンソン率いるカルト集団に惨殺された事件をご存知でしょう。
カルト集団の恐ろしさは、日本人ならオウムの一連の事件からも知っています。

本作は、監督の友人があるカルト集団から脱走したという実話を元に
カルト集団の実態と、信者の心に巣くった心の闇をサスペンスタッチで描く作品です。
サンダンス映画祭で監督のショーン・ダーキンが監督賞を受賞
インディペンデント・スピリット賞で主演のエリザベス・オルセンが主演女優賞にノミネート
カルト集団のリーダーを演じたジョン・ホークス助演男優賞にノミネートされています。

Martha Marcy May Marlene (原題)(2011)アメリ
監督:ショーン・ダーキン
出演:エリザベス・オルセンサラ・ポールソンヒュー・ダンシージョン・ホークス

冒頭、男は薪を割り、小さな子供が庭で遊び、赤ん坊を抱いた女性らが庭先で団欒する牧歌的な風景。
画面変わって、男6人ほどがダイニングで食事をするシーン。
その間、隣室で待つ10人ほどの女性たちの表情は異様で
家族とも思えないこの集団は、いったいなんなんだろうと違和感。
翌日、一人の女性が早朝の寝床から抜け出し、すばやく身支度を整える
彼女の名はマーサ(エリザベス・オルセン)。
誰にも気づかれないように慎重にさりげなく
しかしその足取りは次第に速度を増し、マーサは森へとひた走る・・。

マーサはその後、追ってきた男に見つかるものの、隙をついて2年間音信不通だった姉に連絡。
秘密を抱えたまま、夫婦の賃貸別荘で同居を始めます。

映画はそんなマーサの別荘での日常と、彼女の暮らしたカルト集団での暮らしぶりを
時間軸を交錯させながら描いていくという作り。
牧歌的と思われた集団生活が、やがて異常性を帯び
ザワザワと心に広がる違和感が、決定的な嫌悪感へと変わっていく
この感覚はハネケ作品のそれに似ていました。

長いタイトルの意味はマーサは主人公の名前、
マーシー・メイは集団のリーダー(ジョン・ホークス)がマーサにつけた呼び名
最後のマーリーンは、集団の女性全員が、電話などの対応をするときに使う名前。




カルト入団初日の爽やかな表情から、どこかが決定的に破綻してしまった表情まで
マーサを演じたエリザベス・オルセンの演技は、新人とは思えない上手さがありました。
ちなみに彼女はドラマ『フルハウス』の子役ミッシェルで有名な、双子のオルセン姉妹の実の妹。

カルト集団の実態、次第に価値観が置き換わってしまうことにゾッとする作品ですが
多くを語らずに、マーサに巣くった不安と恐怖を見せきるラストシーンなど、スリラーとしても秀逸です。

【追記】
2013年2月の公開が決まったようです