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映画ノート

死をテーマに命を見つめる ギデルモ・デル・トロ『クロノス』

今日は『パンズ・ラビリンス』のギデルモ・デル・トロの長編デビュー作『クロノス』。 93年度カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞。メキシコ・アカデミー賞で9部門を独占した異色のヴァンパイア・ムービーです。
クロノス 1992年(メキシコ)
原題:Cronos
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:フェデリコ・ルッピロン・パールマンクラウディオ・ブルックマルガリータ・イザベル、 タマラ・サナス


冒頭、一人の男の死が描かれます。それは不老不死をもたらす「あるもの」を得て、450年以上の時を生きた男。
めぐりめぐって、とある骨董品店にたどりついた「あるもの」・・これが、ぜんまい仕掛けの昆虫の形をしたブローチ様金細工なんですが骨董品店主人の老人グリスが、偶然それを作動させたことから、彼は不老不死の体を得ることに。同時にグリスは血を欲するヴァンパイアになってしまったことに気づきます。一方、ブローチを狙う富豪の存在により、グリスは身の危険にさらされることになる・・というお話。


タイトルのクロノスというのは、時間の神を意味する言葉らしいのだけど
永遠の命に翻弄される人々の哀しみを描く作品でしたね。
封印されたはずのものが姿を現すことになるのも癌を患った富豪の男が、死を恐れ、ブローチを手にしようとしたところから。

主人公のグリス(フェデリコ・ルッピ)は、ある意味その欲望に巻き込まれた被害者みたいなもの。
富豪の男とグリスを対照的に描くことで人は何のために生きるのか、そしてどう死ぬのが幸せなのかを考えさせる作品になってます。
ギデルモ作品は、脅かしを目的としたモンスターを描く作家ではなく「死」をテーマに「命」を見つめる人なんだろうと思います。
監督の作品にはよく子供が出てきますが本作でも、グリスの孫娘の存在がとてもいい。
ヴァンパイアになってしまったグリスを静かに受け入れ、助ける姿がけなげで
安らかなラストシーンも、この子の存在があってこそ。
金物細工のブローチの内側を見せる映像、500年前の時代の描き方など重厚な映像美も魅力的。
グロい吸血鬼ものを期待すると、物足りないと思う人もいるかな。
でも最後にはいつも穏やかな感動をもたらしてくれる、監督の「死」の描き方は好みです。
誰にも死はやってくるもの。
愛するものに見守られ、安らかに命を終えるのが幸せだなぁと感じる作品でした。
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★★★★