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映画ノート

孤島の王

ノルウェーのバストイ島の少年更正施設で実際に起きた脱走劇を描くサスペンス。
ノルウェーの権威あるアマンダ賞で作品賞、脚本賞など4部門を制した作品です。



孤島の王
2010年(ノルウェー・フランス・スウェーデンポーランド
原題:Kongen av Bastoy
監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルドクリストッフェル・ヨーネル
ベンヤミン・ヘールスタートロン・ニルセン

 1915年、ノルウェー・バストイ島の非行少年矯正施設に
非行少年エーリングが送られてくる。
ここでは厳しい規律の元、少年たちは重労働を課せられ、共同生活を送っている。
エーリングはやがて、模範的な施設という表の顔とは違う院の実態に直面し、
反抗心をあらわにしていく。

監督のマリウス・ホルストがこの映画を撮ろうと思ったのは
偶然にこの施設で少年時代を過ごした老人から話を聞いたからだそうです。
理想の矯正施設と思われたバストイ島では、
見せしめとしての暴力や、性的虐待までもが存在したことに驚き
今にも通じる問題として、リサーチに基づき真相を映画にしたのだとか。




少年たちはc-19などの通し番号で呼ばれ、個人などあってないようなもの。
その多くが犯罪者ではなく、孤児であったことにも驚きます。
エーリングの存在は少年たちに変化をもたらします。
不屈な精神で虐待に抗議し、施設からの脱出を図るとするエーリングに
初めは戸惑っていた少年たちも、徐々に共鳴し、
密かに期待と羨望を持ちはじめる。
少年たちの心の変化の描き方が丁寧で、演技も秀逸。
極寒のノルウェーでの撮影はかなりハードだったことでしょうが
その厳しさが映画に陰鬱さと重みを与えてますね。

途中、エーリングの回想シーンとして、銛を打たれ、傷つきながらも
必死に生き延びようと荒れ狂う鯨の姿が何度も映し出されます。
それは次第に屈強な精神で立ち向かう
エーリング自身の姿に重なって見えました。

厳格な院長を演じるのがステラン・スカルスガルド
おそらくは理想的な院を目指す教育者が、欲や名声、しがらみから
変わっていったのか。悲しき孤島の王を静かに演じて映画を引き締めます。

閉鎖された環境で、虐待に苦しむケースは
100年経った現在も、そこここであるのでしょう。
重い作品ですが、監督のメッセージは感じる作品で見ごたえがありました。

★★★★