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映画ノート

【映画】もうひとつのマッドマックス『奪還者』



奪還者(2013)オーストラリア/アメリ
原題:The Rover
監督:デヴィッド・ミショッド
日本公開:2015/7/25


あらすじ
世界経済の崩壊から10年後、鉱物資源を求める労働者たちが世界中から集まり、広大な無法地帯と化したオーストラリア。 エリックはただ惰性で生きる放浪者だ。ある日場末のレストランで休憩中のエリックの愛車が3人の強盗団に奪われ・・

感想
アニマル・キングダム』のデヴィッド・ミショッド監督/脚本のサスペンス・ロード・ムービー。
ガイ・ピアース演じる放浪者エリックが、強盗団の弟を道案内に、盗まれた愛車を奪還すべく強盗団を追うという話。
もうひとつのマッドマックスと言われるのは不法地帯と化したオーストラリアを舞台にしたロードムービーだからでしょうか。しかし殺伐とした世界観はむしろこちらの方が上。

というのも、エリックは愛車を奪い返すためには手段を選ばず、銃を得るために人まで殺してしまうから。
そんなエリックが銃撃戦で負傷し、野垂れ死に寸前のレイを助けたのは、強盗団のアジトへと道案内させるため。
『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソン演じるこのレイという青年、少し頭が弱そうなんですが、レイは唯一の肉親の兄を愛している。
しかし、兄に見捨てられたという事実が彼を苦しめているんですね。



同じように愛を失い、人の心も捨てたはずのエリックがレイの孤独に共鳴した形でしょうか。2人の間にいつしか兄弟のような友情が芽生え始めるんですが、同時にその関係は非常に不確かなもの。
よってある種の緊張感を持って二人の旅を見守ることになります。

この映画、あまり説明しすぎないところが凄く好み。
たとえば、エリックが、あるおばさん(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に出てたおばさん!)から名前を訊かれるシーン
エリックは無視して名前を言おうとしないんですが、何度も訊かれ動揺するんですね。
自分が何者であるかを考えるだけで辛くなるような、どんな哀しい過去を抱えているのかと思わせる。そういった演出が秀逸。

うっかり観たら「??」になりそうなラストシーンも
顔の周りを飛ぶ小さなハエを払うこともせず、ボーっと虚空をみつめる冒頭のエリックの横顔を思い出せば想像はつく。
彼が車に執着する意味もようやくわかるのです。

全ての愛を失い、それでも歩き出さなければいけない
そんな未来像がヒリヒリと痛い映画でした。
エリックと行動すればするほどに、兄への愛が揺らぎ葛藤するレイを刹那に演じたパティンソンが良かった。