『パーマーの危機脱出』ハリー・パーマーシリーズ第2弾
パーマーの危機脱出(1966)
Funeral in Berlin
【あらすじ】
英国情報部のパーマーに、ロシアの亡命将校を保護する指令が降った。彼はベルリンへ飛ぶが、そこには彼の知らない策謀が渦巻いていた……。
【感想】
『国際諜報局』に次ぐ“ハリー・パーマー”シリーズ第2弾です。
監督は『007 ゴールドフィンガー』『007 ダイヤモンドは永遠に』等007シリーズの4作を手掛けたガイ・ハミルトン。
同じ監督の作品でありながら、こちらマイケル・ケイン演じるハリー・パーマーは黒縁眼鏡とトレンチコート、スパイグッズもなく、移動はタクシー。
許可証を申請しなければ銃も持てないという超お地味なスパイで、007とは真逆な作品に仕上がってるんですねぇ。
まぁでも、スパイなんて影を消してなんぼ。
こちらのほうがリアルということでしょう。
取引の金額を値切ったり、事務手続きに辟易としたリ職場や現場の現実味ありすぎなやり取りが可笑しみでもあり、サラリーマンな風貌で飄々淡々と、自虐的なジョークでやりすごすマイケル・ケインの哀愁とユーモアを楽しめます。
今回パーマに課せられたミッションはKGBの要人を西に亡命させるのを助けるというものだけど、それを利用してあまたの敵(元ナチスの犯罪者、イスラエル情報機関、パーマーが所属する英国情報局等)が絡んでくる。
しかもそれぞれ正体を隠して暗躍してくるからちとややこしいのだけど、腹の探りあいも面白さのうち。
仕事と割り切るサラリーマン風情でありながら、パーマのスパイとしての腕は確かで、鋭い洞察力と判断能力で、気づけば危機を脱出し、ミッションコンプリートなのはあっぱれです。
今回のテーマは「アイデンティティと誇り」というところかな。
KGBもモハドも彼らなりに誇りを持って生きている。
おそらくは「自分はどうだ?」と自身に問うたであろうパーマー。
ミッションのため与えられた「エドモンド・ドーフ」という名前が気に入らず「ロック・ハンター」を希望するも、あんたのタイプじゃないと軽く却下。
それでも何度もその名を口にするのは、笑いどころだったけど、アイデンティティや誇りの視点で見れば、思い描く姿がそこにあったのかもしれないと思ってみたり。
最後に上司であるロスが窓の外の(多分)英国女王陛下の像を見つめる姿にも
彼なりの葛藤はあるのだなと想像したところ。
原作のタイトルでもある原題の『ベルリンの葬送』はロシアの将校を亡命させる手段として棺に納めて西に移送させることから。
https://ja.wikipedia.org/wiki/パーマーの危機脱出
クリムゾン・リバー
guchさんがはてなで紹介してくれたフランス産のミステリー映画。
早速観ました。
クリムゾン・リバー(2000)
Les Rivières Pourpres/The Crimson Rivers(英題)
【あらすじ】
フランスのアルプスの麓にある大学街ゲルノンで、体中を鋭利な刃物で切りつけられ、胎児のような格好をした遺体が地上50mの崖から発見される猟奇殺人事件がおき、パリからニーマンス警視が派遣される。時を同じくして、近くの田舎町サルザックで墓荒らしが起こり、駐在員のマックス警部補が捜査にあたる。
【感想】
ジャン・レノ演じる敏腕警視ニーマンスが追う猟奇連続殺人事件と、ヴァンサン・カッセル演じるマックスが担当する田舎町の墓荒らし、何の関係もなさそうなふたつの事件が並行して起こり、やがて繋がっていく。
ナチ残党など出てこないのに『ブラジルから来た少年』を思わせるストーリーが面白く、ヨーロッパにはいまだにナチスの爪痕が残っているのかとゾっとする。
ただ、映画としては多くを説明しないので、そうした歴史を知らないとついていけない人も多いかもしれない。
主演2人は実にいい。
監督はマチュー・カソビッツということで、まずは常連のヴァンサン・カッセルを魅力的に使ってます。短気で一見いい加減に仕事してそうに見えるマックスは、実は勘が鋭くデキるやつ。かたやジャン・レノ演じるニーマンスは事件の解決は一人で事足りるであろう孤高な天才刑事。そのニーマンスもやがてマックスを認め、互いに信頼を置いていく過程がいい。手に汗握るアクションでも魅せてくれます。
ニーマンスの唯一のウィークポイントが「犬が怖い」ことで、その理由が明かされるのを楽しみにしていたのだけど、最後、音のないエンディングでマックスとの友情を深めるシークエンスとして使われていてウケてしまった。
エグい物語をこう〆るかと笑ってしまったけれど、そのほのぼのな感じにホッとできるのがいい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/クリムゾン・リバー
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』タランティーノの郷愁
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)
Once Upon a Time in Hollywood
【あらすじ】
かつてテレビスターとして名を馳せた俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)も今は落ち目。専属スタントマンとしてリックを支えてきたクリフ・ブース(ブラッド・ピット)も苦しい状況に置かれている。そんな中、隣に新進の映画監督ロマン・ポランスキーと妻シャロン・テート(マーゴット・ロビー)の夫妻が越してくる。
【感想】
クエンティン・タランティーノが監督し、アカデミー賞の10部門にノミネート、ブラッド・ピットが助演男優賞を受賞した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(以下『ワンハリ』で(汗))ようやく観ました。
彩度を落としたロスの景色に映し出されるレストランの看板、大きなアメ車にヒッピー族。古い映画のポスターや劇中劇中のこんな構図にも、タランティーノの郷愁を思わせます。
役者では、まずはディカプリオとブラピという豪華すぎるコンビが楽しい。
ディカプリオ演じるのは往年のテレビスターだけれど、今や新しいスターを引き立てる悪役しか回ってこない落ち目の役者。時代に取り残され、実力もそこそこありプライドもあるけれど、仕事は激減。
このままでは豪華な家を手放さなければならないばかりか、専属スタントも養えない状況に、小ばかにしていたイタリアの西部劇にやむなく出演することを決めるリック。子役に演技を褒められ涙するあたりの悲哀は、現実のレオにリンクしてるようで切なかったり。
一方のブラピの、ムッキムキの筋肉に常に準備万端のプロ意識をにじませつつも、華を消し、影のようにリックを支えるスタントダブルとしての佇まいが素晴らしい。レオとの掛け合いはテンポ的に噛み合わないけれど、互いを信頼して大事にしてるのがよく伝わって愛しい。ワンコとの関係も忘れちゃいけない。至高のバディぶりにニマニマが止まりません。
全部は分からなかったけれど、マックイーンやブルース・リーなど名前を知った役者が出てくるのも楽しい。
そして、もう一人重要な登場人物はマーゴット・ロビー演じるシャロン・テートでしょう。事件のことは知ってはいたけれど、彼女を見たことあるのは『ポランスキーの吸血鬼』の中だけで、その私生活や、彼女の性格についてもまるで知りません。そのシャロンが『ワンハリ』の中では自分の出演作を誇らしげに映画館で鑑賞し、楽しそうにダンスし、幸せそうな妊婦の顔を見せてくれたりする。
これこそが映画のマジックであり、タランティーノの古き良き時代への郷愁なのかなもしれませんね。
終盤、緊張感に手に汗を握ることになるのだけど、『イングロリアス・バスターズ』を彷彿とさせる展開はタランティーノ流のリベンジであり優しさでもあるのでしょう。
ポランスキーの反応を知りたいとも思ったな。
ともあれ、タランティーノのやりたいことをいっぱい感じた一本でした。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
地下室のメロディー
地下室のメロディー(1963)Mélodie en sous-sol
製作国:フランス
貧乏くさく働くなんてまっぴら御免。余生はセレブとして暮らすんだい!
計画実行の相棒として選んだのは、ム所で知り合ったチンピラのフランシス(アラン・ドロン)。果たして、うまくことは運ぶのか。
二人のコンビのかみ合わなさが面白いです。
ドロン演じるフランシスのえせセレブの滑稽さや短絡振り
それまでとは打って変わって手に汗握るスリリングな展開になる。
空調の筒の中を通り抜けたり、エレベータの綱をよじ登ったりと
華麗にアクションをこなすドロン様も見ものです。
うっはー、なにこれー、面白すぎる~!!!
・・・何か他にうまい表現は出来ないのかと恥ずかしいのだけど、ご覧になった方にはこの興奮の理由分かっていただけるかと(笑)
スコルピオ
マイケル・ウィナー監督、アラン・ドロン バート・ランカスター共演のスパイアクション『スコルピオ』です。
スコルピオ(1972)アメリカScorpio監督:マイケル・ウィナー
出演:バート・ランカスター/アラン・ドロン/ポール・スコフィールド/ゲイル・ハニカット/ジョン・コリコス/J・D・キャノン/ヴラデク・シェイバル
■感想
殺し屋ローリエ(アラン・ドロン)は、CAI諜報部員クロス(バート・ランカスター)と中近東某国の首相を暗殺した際、CIAの幹部にクロスも殺すよう指令を受けていたが、付き合いの長い彼を殺すことができなかった。
CIAの罠にはまり命令を聞かざるを得なくなったローリエは、逃亡したクロスを追うことになる・・
ドロン演じるローリエは、スコルピオ(さそり)と呼ばれるクールで腕が立つ男だけど自分が納得しなければ仕事は請け負わないという頑固さがある。
クロス殺害の指示に従わないのは、クロスを人間として尊敬しているからでもある。
妻を愛し、人間的な側面のあるクロスは、孤独なローリエにとって
唯一信頼できる人間で、憧れの存在でもあったかもしれない。
チャンスがありながらも、引き金を引かず
クロスが二重スパイであるという証拠を追い続ける。
非情になりきれないスパイ同士が、国家に翻弄され対決しなければならないところに
この映画の魅力がありますね。
適度にハラハラできました。
本作でも、結局信頼できるのは猫だけなのが切ない。