イル・ポスティーノ

１９９４年（イタリア／フランス）監督：マイケル・ラドフォード出演：マッシモ・トロイージ／フィリップ・ノワレ／マリア・グラツィア・クチノッタ／リンダ・モレッティアンナ・ボナルート【ストーリー】ナポリの沖合いに浮かぶ小さな島。そこへチリからイタリアに亡命してきた詩人パブロ・ネルーダが滞在する事になった。老いた父と暮らし、漁師になるのを望んでいない青年マリオは、世界中から送られてくるパブロへの郵便を届けるためだけの配達人の職につく。配達を続ける内に、年の差も越えて次第に友情を育んでいく二人。詩の素晴らしさを知ったマリオは、詩の隠喩についても教わる。やがてマリオは食堂で働くベアトリーチェという娘に一目惚れし、彼女に詩を送ろうとするのだが……。

■感想
マッシモ・トロイージが病に冒された身体で撮影に臨んだ執念の一本。
１９５０年代、ナポリの沖合に浮かぶ小さな島に暮らす青年と、チリから亡命して来た詩人との交流を描いた感動作です。
タイトルのイル・ポスティーノは郵便配達人の意味。

島民のほとんどが文字を読み書きできないこの島（架空の島らしいです）で、唯一の郵便物は詩人パブロに宛てたもの。
マリオはパブロへの郵便物を届けるためだけの配達人になり、パブロと接するうちに詩の世界に目覚めていきます。
詩の世界に興味津々のマリオと接するうちに、偉大な詩人にも初心に立ち返る重いがあったのか、
心を開いていく二人の交流がなんともほのぼのとして暖かく、ついつい顔が緩んじゃってました。

やがてマリオは村一番の美しい娘に一目惚れ。
一見不釣り合いに見える二人ですが（失礼（*>∀<*））娘に捧げた詩はいつしか彼女の心を溶かしていくんですから、
詩の力って偉大だし、文学の世界は奥深いですね。

追放令が解除され、パブロが故郷チリに戻ることになった後半からは、ガラリと趣が変わります。
忘れ得ぬ人となったパブロに友情を感じるマリオでしたが、多忙なパブロからの手紙は届かず‥、
自分はパブロにとって小さな存在だった、彼には与えられるばかりで何も与えることは出来なかったと思い始めるんですね。
そんなマリオがパブロのために島の美しさを届けようとする中で、自分の回りの美しいものに気付き、
自分の可能性を見出していくところが感動的でした。

純朴なマリオのキャラクターが微笑ましく、美しい島、青い海、そして音楽が、えも言われぬ情緒を醸し出すんですね。

ラストのパブロの表情には、友を懐かしむ気持ちや、もしかしたら自分に逢わなければマリオはもっと平凡にくらしていけたかもという後悔の念もあるように感じたり、、。

マリオを演じたマッシモ・トロイージは撮影のために、心臓移植手術を延期。
そして撮影終了の１２時間後に心臓発作で４１歳の若さででこの世を去っています。

パブロを演じるのは『ニューシネマパラダイス』のフィリップ・ノワレ。
時にキュートなところを見せてくれながら、穏やかな微笑みが印象的でやっぱり素敵な役者さん。

ラストはハピーエンドではありません。
それでも切なさの中に穏やかで暖かいものを感じました。
マッシモさんは無理を押して演じあげたマリオを通し、
イタリアの美しさ、そこに生を得たことの喜び、そして表現することの素晴らしさを伝えたかったのかもしれません。
お気に入りの映画になりました。

第７０回キネ旬　外国映画部門の第一位でした。

★★★★★