しまんちゅシネマ

映画ノート

君を想って海をゆく


2009年(フランス)
監督:フィリップ・リオレ
出演:ヴァンサン・ランドン/フィラ・エヴェルディ/オドレイ・ダナ/デリヤ・エヴェルディティエリ・ゴダール/セリム・アクグル
■感想
フランスにおける移民の対処について考えさせられる作品です。
監督は『パリ空港の人々』(未見・泣)のフィリップ・リオレ
 
【ストーリー】
2008年12月、フランス北端の街カレ。イラクの国籍を持つ17歳のクルド難民ビラルは、家族と共にロンドンに移住した恋人を追って、イラクから4000キロの距離を歩いてやって来た。しかし、ドーバー海峡を越えるべく密航を試みるも失敗に終わり、カレに足止めとなってしまう。もはやビラルに残された手段は、海峡を泳いで渡る以外にはなかった。そして、市民プールで子どもや老人相手に指導をしているフランス人シモンにコーチを懇願する。最愛の妻と離婚調停中のシモンは、難民支援のボランティアをする妻に認めてもらえるのではとの思いから、コーチを引き受けることにするのだが…。(allcinemaより)

これは『扉を叩く人』のフランス版とも言える作品ですね。
 
4000キロの距離を歩いてフランスにやってきたクルド難民ビラル(フィラ・エヴェルディ)は
恋人が移住したイギリスに行こうとしますが、そのためにはドーバー海峡を渡らなければならない。
輸送のトラックにもぐりこむことを試みますが、検査は厳しく、
あるトラウマから彼はその手段を諦めざるを得ない。
彼に残された手段はドーバー海峡を泳いで渡ること!
とても信じられないことですが、彼ら移民は命を懸けるしかないのです。
 
中東の情勢悪化に伴って増え続ける難民は、ヨーロッパ諸国の厄介者になっています。
フランスにおいても同じこと。
トラックの検査の厳しさ、移民をかくまう人間に対する法の厳しさに
だんだんに取り締まりを強化しているフランスの実態が浮かび上がります。
生き延びるためには犯罪もいとわない彼らを排除しようとするのはやむなきことともいえますが
だんだんに厳しさを増し、移民に対し、人為的に対処できなくなっている状況に
それでいいのか?と問いかけてるんですね。
 
フランス人シモン(ヴァンサン・ランドン)がビラルのスイミングのコーチを引き受けるのは
離婚調停中で難民支援のボランティアをする妻にいい印象を与えるためという下心があったのですが
ビラルが海を渡ろうとするのが、恋人を想う純粋さゆえであることが、シモンの心を変えていきます。
自分自身の妻への思いをビラルにかぶせるのです。
「親切にしてやる」的な臭さがなく、ビラルともある距離を保った関係として描いているのがリアルで良かった。

英題は『Welcome』
シモンの家の玄関マットにも「ウエルカム」の文字
映画の終わりにも大きくこのタイトルが映し出され、これには泣けました。
 
移民の問題を真っ向に捉えた社会派な作品であり、人権や人間的であることを考えさせられと同時に
同時に恋人を想う純粋な青年の哀しい運命に心揺すぶられました。
 
フランスからこういう作品が出て、ヒットするというのは意味のあることですね。秀作です。