しまんちゅシネマ

映画ノート

悲しみのミルク


 
ペルーの現代史を背景に、悲しみのトラウマを持つ娘の成長を描くヒューマンラマです。
2009年にベルリン国際映画祭金熊賞受賞。米アカデミーでは外国作品ノミネートを果しています。
悲しみのミルク(2008) ペルー
監督:監督: クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエル/スシ・サンチェス/フライン・ソリス/マリノ・バリョン
 
■感想
冒頭、死の床にある老女の歌声
それはかつて彼女が味わった
レイプによる恐怖の思いを歌に託した恨み節
 
やがて老女は息を引き取り、
娘のファウスタが、心の準備のないままに一人残された。

映画の中では、特に説明もされてないのですが
80年~90年代、ペルーのテロの時代に、
多くの女性がレイプなどの被害を受けたのだとか。
 
タイトルの悲しみのミルクというのは
母乳を介して、子供に悲しみの記憶が伝播されるとする考えから。
母の受けた脅威は、娘にも大きく影を落とし、
それはトラウマとなりファウスタを苦しめ、彼女は家から出ることさえ出来ない娘。

しかし、母を埋葬する費用の必要性にかられ
彼女は裕福なピアニストの屋敷で、メイドとして働くため、街に出ます。
映画は、ファウストがトラウマに対峙し、克服する姿を描くもの。
母の死が、彼女を前進させることになるんですね。

ひとつ驚きの描写があるのだけど
ファウストは男性を恐れるあまり、膣内にジャガイモを入れていること。
ジャガイモは彼女の体内で育ち、やがて芽を吹くのですが
ファウストはそれを自分で摘みます(汗)
しかしながら、ジャガイモは、トラウマを克服するファウストを象徴するものとして
描かれていることに気づくことになり、印象的です

ヒロインファウスタは、いじいじと暗いのだけど
映画の中では、たくさんの結婚式が描かれ、これがとても明るいのですよ。
そもそも南米のラテン気質なのでしょう。

決して裕福ではない暮らしぶりでも、明るく歌い踊る姿は活気に溢れています。
色彩に溢れ、寓話的とも言える、その描写に、不思議な感動を覚えてしまうのは
悲しみを乗り越え、本来の姿に立ち返ろうとする作り手の思いが
復興に向かおうとする、私たちの気持ちに重なる気がするからかもしれません。
 
独特の映像美、ファウスタの歌声が心に残る作品でした。
 
4/2~日本公開中
 
 




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