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映画ノート

未来を生きる君たちへ


 
二つの家族の姿を通し、「報復」と「赦し」について描きあげるヒューマンドラマの傑作。
監督はデンマークスサンネ・ビアアカデミー外国作品賞を受賞しています。
未来を生きる君たちへ(2010) デンマークスウェーデン
監督:スサンネ・ビア
出演:ミカエル・パーシュブラント/トリーヌ・ディルホム/ウルリク・トムセン
   ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン/マルクス・リゴード/トーケ・ラース・ビャーケ
 
深いよなぁ、スサンネ監督。
エリアスは学校でいじめにあっても、ひたすら耐えるような少年。
父親はアフリカの難民キャンプで医師として働いており不在。両親は離婚の危機に瀕している。
 
ロンドンから越してきたクリスチャンは、母親を亡くしたばかり。
聡明な子供だが、母の死を受容できず、父親との間に確執がある。
 
エリアスが学校でいじめにあっているところを、クリスチャンが助けたことから
二人は交流を深めることになります。
クリスチャンは、暴力には力で応じようとする子供。
やがてそのことはある事件へと繋がっていく・・というお話です。
 

二つの家族の物語でありながら、この作品では世界の平和をみつめる監督の視線を感じますね。
原題は「復讐」と訳されることが多いけど、「報復」と言ったほうがピンとくる気がします。
正義感の強いクリスチャンにとって、「報復」は「世直し」なんですね。
戦争を支持するものも、テロリストにしても、
元の考えはクリスチャンと同じかもしれません。
けれど、暴力に暴力で抗えば、報復の連鎖は止まらない。
力を見せ押さえ込むための報復は何も生まないということを、しみじみと考えさせられる作品です。
 
スサンネ監督の心理描写の巧みさには、いつもながら感心させられますが
それに応える役者も凄い。
今回は子供たちの上手さにも驚かされますねぇ。
 
「報復」に向かう様子をサスペンスフルに描きながらも
最後に希望を見せてくれるところがスサンネ監督らしいところ。
 

クリスチャンの父親は、自身の悲しみもあり
息子の怒りに向き合うことができないでいた。
けれども、耳を傾ければ、分かり合えることもあるのだということを感じます。
平和主義のエリアスでも、環境に流され暴力に加担することにもなる。
子供の小さなサインやSOSを、大人が見落とさないことも大事ですね。
 
英題は『In a Better World』。
人々がわかりあい、赦しあえば、そこによりよい世界が生まれる
そんなメッセージに、最後には熱いものがこみ上げました。