しまんちゅシネマ

映画ノート

裏切りのサーカス

今日はフランス映画未公開傑作選から『三重スパイ』を記事にしようと思ったんですが
その前にニ重スパイおさらいしときます(笑)
消化不良だった『裏切りのサーカス』をDVDで再見しました。
ジョン・ル・カレの代表作を『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン監督が映画化した一本です。
 

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裏切りのサーカス

2011年(フランス・イギリス・ドイツ)
原題 Tinker Tailor Soldier Spy
原作:ジョン・ル・カレ
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマンキャシー・バークベネディクト・カンバーバッチコリン・ファーススティーブン・グレアムトム・ハーディキアラン・ハインズジョン・ハートトビー・ジョーンズサイモン・マクバーニーマーク・ストロング
【ストーリー】
1960年代のロンドン。ある作戦の失敗でイギリスの諜報機関サーカスを引責辞職したジョージ・スマイリーに、ある日特命が下される。それは、いまもサーカスに在籍する4人の最高幹部の中にいる裏切り者=2重スパイを探し出せというものだった。(映画.comより)


原題は『Tinker Tailor Soldier Spy
これはイギリスの数え歌の一節らしく、実際には
Tinker, Tailor,Soldier, Sailor,Rich Man, Poor Man,Beggar Man, Thief.と続きます。
映画の中では、ミッションのミスでイギリス諜報機関サーカスを引責辞任することになる
元司令塔のコントロールジョン・ハート)が
独自の調査でめぼしをつけた裏切り者候補5人を、
それぞれTinker、Tailor、 Soldier、 Poor Man、Spyというコードネームをつけ呼んでいたんですね。

前の記事でも書いたけど、これは往年のスパイものを期待すると裏切られます(笑)
本作はスマイリーが密かに真実に近づくというプロットを取りながら
この時代に生きたスパイたちの葛藤を描く静かな映画なのです。

監督は言葉で説明する代わりに、映像で見せるタイプだろうと思うのだけど
本作も冒頭からしばらくは、物語の方向性が見えにくく、退屈に思うかもしれない。
けれども、見直してみると様々な情報を含んでいるので
ここはじっくり観察するつもりで見るのが正解。
特に途中何度か挿入される、サーカスメンバーのクリスマスパーティに集う
人々の表情なども要注意です。

見直してみるとね、アカデミーで主演男優賞にもノミネートされた
ゲイリー・オールドマンがやっぱり素晴らしい。
やや老けメイクで静かなスマイリーを演じてますが、洞察力に長け隙がない。
サーカスを去った後も、彼は自宅玄関のドアに小さな木片を挟み
留守中の侵入者に気づくようにしている。
移動中、車内に入り込んだ蝿を部下がうるさそうに払うのに対し
スマイリーは蝿の動きを見て、さっと窓をあけ逃がすとかね。
細かい演出で巧みにキャラクターを描写していて無駄がありません。
静かな彼が終盤一度だけ声を荒げるシーンがあり、これは最高に効果的でした。

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個人的に嬉しかったのは、スマイリーの部下ピーターの下
ロシアで諜報活動をするリッキー・ターを演じるトム・ハーディの存在。
彼は仕事で張っていた先で、暴行を受けていたロシア人女性イリーナを好きになってしまうという
だめだめスパイなんですねw
鑑賞後、気になる箇所を監督とオールドマンのコメンタリーを聞いたのだけど
二人で力太(リッキー・ターだけどw)を馬鹿馬鹿と言ってて笑う。

本作はあまり説明がなく、時間軸も若干交錯したりするので
一度で理解しにくいという感想を持つ人が多いだろうと思います。
でも、この映画ね、モグラ探しを楽しむというよりも
登場人物の心理描写が秀逸なんですよ。

例えばスマイリーの妻への想いとか。
マーク・ストロングの愛(笑)とか。
勿論お馬鹿呼ばわりされようと、単細胞で泣き虫のトム・ハーディには胸キュンだし。
スマイリーの部下として活躍するベネディクト・カンバーバッチ演じるあるシーンでは
唯一スパイものらしい緊張感を楽しめます。

インテリアや小物で60年の雰囲気を出すことにも成功していて
窓越しなど、キューブの中で見せる映像も面白い。
ややスモーキーなトーンで、差し色にもってきたオレンジも効いています。
最後は全てが再生に向かうことをイメージさせる音楽とともに
清々しい気持ちで見終えることのできました。
再見で面白さを痛感したけど、一度で判りにくいのが難点かな。(私だけ?w)

★★★★