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映画ノート

『ウディ・アレンのザ・フロント』は赤狩りの実態を描く社会派コメディの傑作

 

小説家が出てくる映画を特集してましたが、ここからは少し範囲を広げて、脚本家が出てくる映画を2~3。
今日はハリウッドを震撼させた赤狩りを描く社会派コメディ『ウディ・アレンのザ・フロント』です。
ウディ・アレンのザ・フロント(1976)アメリ
原題:The Front
監督:マーティン・リット
出演:ウディ・アレン/ゼロ・モステル/マイケル・マーフィ/G・ジョンソン 
  ソ連と冷戦下にあったアメリカは、共産主義者による諜報行動などの脅威から、共産主義者とそのシンパを「赤」として排除。映画界も例外ではなく50年代には「赤狩り」によって多くの映画人がブラックリストに載せられ、ハリウッドから追放されることになったんですね。

役者や監督は表に出ることが出来なければどうすることもできない。
けれど脚本家は密かに執筆を続け、別の人の名前を借りて作品を発表していた様子。
表に出ることの出来ない脚本家たちに変わって名前を貸し、表に出る人物をさすのがタイトルの「フロント」。
ローマの休日』のダルトン・トランボがイアン・マクレラン・ハンター名義でクレジットされていたことなどがその例。
本作ではウディ・アレン演じるハワード・プリンスが「フロント」の役割を担っています。
 
 

ウディ演じるハワードは、元はしがないバーのレジ係。
賭け事で金をスっては給料の前借を頼み込むようなダメダメ人間なんですが、フロントを請け負い(偽の)脚本家デビューするや、業界から注目されようになる。羽振りもよくなると同時に名声まで得てくると、まるで自分が偉くなったような錯覚に陥り、妙な自意識が前面に出てくるのが可笑しいんですよ。

前半はウディ・アレンの好演もあって、シニカルコメディとして笑って楽しめるんですが、自体は段々に深刻になり、お気軽ハワードがもはやお気軽でいられなくなる。。という話。  

邦題には「ウディ・アレンの」とあるけれど、監督はマーティン・リット

実は監督のリット、脚本のウォルター・バーンスタインや俳優人の主なところがみな赤狩りの憂き目にあった面々とのこと。
それゆえ、単なるコメディに終わるはずはなく、社会派なメッセージが込められた作品に仕上がっています。

役者にスパイ行為まで強要する調査委員会の実態など、赤狩り魔女狩り的にハリウッドに浸透していったことに驚くと同時に大変興味深いものがありました。
スパイ行為に及んだ有名俳優が自殺する事態に発展していて、作り手の憤りの大きさも感じます。
ヒッキーを演じるゼロ・モステルはこれが遺作となりました。
 
 

終盤のウディ・アレンのカッコいいこと。
時代を映す貴重な作品だと思います。これは面白かった。