【映画】『ルーム』 ブリー・ラーソン、オスカーおめでとう!
ルーム(2015)アメリカ
原題:Room
監督:レニー・アブラハムソン
原作/脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン / ジェイコブ・トレンブレイ / ジョーン・アレン / ショーン・ブリジャース / ウィリアム・H・メイシー
日本公開:2016/4/8
【あらすじ】
母と狭い部屋に監禁され、外の世界を知らないジャックは5歳の誕生日を迎えた。
【感想】
アカデミー賞関連作品をボチボチ観ていきます。
今日はエマ・ドナヒューの同名小説の映画化で
アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされた『ルーム』を観てきました。
トロントのグランプリ受賞からオスカー前哨戦も好調に駆け抜ける本作ですが
なんと監督は被り物ファスベンダーで話題になった『FRANK-フランク-』のレニー・アブラハムソン!
いやー、『フランク』からはまたガラっと作風を変えてきたものです。
「おはようテレビ」「おはようシンク」「おはよう、便器」・・
何に挨拶したか正確には覚えてないんですが・・
幼いジャック( ジェイコブ・トレンブレイ )の一日は身の回りの「もの」たちに挨拶することから始まります。
部屋をぐるりと回るカメラ映像に
?シンク? え? 便器????となる
ここが4歳のジャックがママ(ブリー・ラーソン)と一緒に暮らす「部屋」
何故かここから出ることが出来ない2人にとって「部屋」は世界の全てです。
↑ 卵の殻だって立派なおもちゃであり教育道具
ジャックのために出来るだけ充実した日々を過ごさせようと頑張るママですが
ママはジャックをここから脱出させることを考え始めています。状況が変わってきたのです。
多分この部分は作品紹介でも明かされる部分だと思うので書きますが
実はブリー・ラーソン演じるママは10代の頃に誘拐に遭い、
以来7年間鍵のかかったこの「部屋」に監禁されているのです。
皮肉なことですが、絶望の果てにあったママを救ったのはジャックの誕生であり
ママはジャックを守ることだけに生きる意味を見出しているんですね。
2人きりの生活を「普通」としてジャックに教えるため
ママが作り出す世界観が面白く、映画をユニークなものにしています。
その親心はアウシュビッツの収容所暮らしをゲームに見立て、子供の恐怖心を取り除こうとした『ライフ・イズ・ビューティフル』に通じるものがありますね。
映画が大きく動くのはジャックが5歳の誕生日を迎えて間もなくのこと
監禁生活のターニングポイントからの緊張はなかなかのもの。
リスクを冒してでもジャックの将来を作り出さなければならないママの不安と希望
母としての愛情と葛藤を表現したブリー・ラーソンが評判どうり素晴らしい。
そのブリーの演技に勝るとも劣らないのが、ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの演技。
段々広がる偽りの世界へのひずみに困惑しながらも、新たな発見に目を輝かせ、
時に怖れ、あるいはママをいたわる優しさも持ち合わせたジャックをナチュラルかつ繊細に演じています。
時々差し込まれるジャックのモノローグが詩的な雰囲気を生み出してもいて
透明感のある世界観を作り出すのに貢献してますね。
映画は一方で、社会的な一面も持ち合わせるもの。
母子を待ち構える闇はなかなかに深いのですよ。
正直、序盤の不思議空間から中盤のスリルまでが面白すぎて
ありがちのドラが展開する後半はトーンダウンな感じは否めませんが
誘拐事件に付随した問題点にスポットを当て、単なる感情のドラマにしていないところは評価したいところ。
問題の全てがクリアになるわけではないですが
時が解決することもあるよね、子供は私たちが考える以上に柔軟性があるよねと思えて
穏やかな気持ちになりました。
最後、降りはじめた雪に感極まってしまったのは
「ラストシーンにフェイクの雪を降らせたかったけど予算がないので諦めていた。
でも、あのタイミングで本当の雪が降ったんだ!」
と監督が語っていたのを知っていたから。
なんというミラクル!
白い雪が2人の哀しみを覆い尽くしたら、そこから新しい未来が始まる。
そう思える素敵なラストシーンでした。
ブリー・ラーソンはアカデミー主演女優賞の今のところフロントランナー。
ヒーロー映画が映画界を席巻する中、
こんな低予算映画が、監督賞と作品賞にまでノミネートされる快進撃を誰が予想したでしょうね。
いい映画でした。