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映画ノート

【映画】荒野の誓い

 

イタリアでは多くの人がコロナで亡くなり、お葬式も二週間待ちだとか。

病院にズラリと棺が並ぶ映像に胸が痛みます。

 

今日紹介するのは西部開拓時代末期のアメリカを舞台にした西部劇。

沢山の死が描かれる弔いの映画でもありました。

 

荒野の誓い(2017)

監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベイルロザムンド・パイクウェス・ステューディ
ロリー・コクレイン、ベン・フォスターティモシー・シャラメ、ポール・アンダーソン、スティーヴン・ラング

【あらすじと感想】
1892年、インディアン戦争で名を挙げた伝説の陸軍大尉ジョー(クリスチャン・ベイル)は、退役間近のある日、がんを患ったシャイアン族の首長イエロー・ホークとその一家をモンタナまで護衛するよう命じられる。多くの仲間を先住民との戦いで亡くしたジョーは彼らを深く憎んでおりその任を拒むものの、上官はこれを聞き入れない。断れば年金もなしと脅され苦渋の思いで小隊を率いることになるジョーだったがその道は険しかった。

癌を患ったとはいえ、囚われの身である先住民の「故郷で死にたい」との希望を軍が聞き入れるのはまれなことのはずで、これは白人の先住民への迫害が問題になり始めた時代背景を示唆しているのでしょう。上官のジョーへのあたりが厳しいところにも時代の流れが垣間見えます。
ジョーら兵士たちは殺らねば殺られる過酷な任務を幾多とこなし、多くの仲間を失ってもきた。すでに心はズタズタなのに任務自体を非難される時代になりアイデンティティは揺らぎ、理不尽に憤るしかないわけです。
この辺りは現代の戦争に従事する兵士にも通じるところでしょう。
ダークナイト』でバットマンを演じてきたベイルはここでもヒーローの葛藤を静かな演技で見せてくれます。
そしてベイル同様に寡黙な演技で観客の胸を打ってくるのがロザムンド・パイク
パイク演じるロザリーは残忍なコマンチ族に一家を惨殺され、腕の中で銃撃された我が子を抱いたまま、焼け焦げた家に茫然自失の状態でいるところをジョーの小隊に発見保護され旅を共にすることに。
パイク絡みで記憶に残るシーンも多い中、特に印象的なのは殺された家族を葬る場面です。ジョーたちがシャベルで墓穴を掘ることを拒み、自らの指で硬い地面を掘ろうとするのですが、どう見ても痛そうな彼女の演技に引き込まれずにはいられない。
半分イッちゃってるゴーン・ガールなパイクの慟哭にも思わず涙がこぼれました。

前半先住民への怒りを全身で表現するロザリーですが、彼女の存在はこの映画で大きな意味を持つことになります。我が子の血で汚れたままのドレスを着ていたロザリーに子を持つ女性ならではの気づかいで自分の服を提供する先住民の女性。その申し出を受け入れることを機にロザリーは先住民一家に心を開きはじめ、その柔軟性は同じ哀しみと怒りを秘めたジョーの心情にも変化をもたらすのです。

冒頭本作は弔いの映画でもあると書いたように、多くの死と弔いが描かれますが、思えばこの映画は戦争映画でもあって、作り手は戦争の過酷さを伝えてもいるのですが、根本は人種や土地のために人間同士が争う無意味さを問う映画なのでしょう。
差別や偏見で国民の心が分断する今だからこそ、過去の歴史の過ちから大切なものを学ばなければならない。そんな作り手のメッセージが伝わりますね。

ラストシーンはもしかすると賛否が分かれるところかな。
クールに決めて欲しかった として、最後のジョーの行動を容認しない人もいるでしょう。
だけどね、多分ジョーはあの荒野での約束を守りたかったんだと思う。
その結果として、穏やかな未来を得たとして、その選択をどうして否定できるでしょう。
戦争で仲間を失った人は、自分だけが幸せになることに罪悪感を感じるのかもしれないけれど、呪縛を解いてハッピーになっていいんだよと 救いに胸をなでおろしたのでした。