しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】マ・レイニーのブラックボトム

f:id:puko3:20210407172303j:plain

マ・レイニーのブラックボトム(2020)
Ma Rainey's Black Bottom

【あらすじと感想】
1927年のシカゴ。野心家のトランペッター、レヴィーが所属するバンドは「ブルースの母」と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニーのレコーディングに参加した。
レコーディングが進むにつれて、マ・レイニーは白人のマネジャーやプロデューサーと激しく衝突するようになり……。

 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay5

アカデミー賞にノミネートされた作品についても少し。
今日は主演男優賞にノミネートされたチャドウィック・ボーズマンの『マ・レイニーのブラックボトム』。
昨年、43歳の若さで亡くなったボーズマンの遺作となりました。


ジョージ・C・ウルフ監督によるNetflix作品である本作はブルースの母マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)がシカゴのスタジオでレコーディングする、1927年のとある一日を描く作品です。

1927年といえば、まだ黒人には公民権も与えられてませんから、差別のはびこる時代だったでしょう。それでも南部では黒人は独自の文化を持ち、その一つがブルースなどの音楽です。

冒頭、森の中に設置されたテントの舞台では、金歯を光らせたマ・レイニーがダンサーをバックに歌っている。
私の思うブルースよりも派手な印象。元祖はこんな風だったんだ。

そのマがレコーディングのために、白人のプロデュースするシカゴのスタジオに凱旋する。当時にしてみれば物凄いことだったでしょうね。

バックバンドのメンバーたちは、マ一行とは別に列車でやってきます。
大きな楽器を抱えた黒人たちを、道行く人々が驚いたように振り返るのが印象的。
一方、お気に入りのダンサーと甥っ子を従えてピカピカの新車で乗り付けるマ・レイニーですが、着くなりちょっとした事故に遭ってひと悶着。白人の警官など、新車に乗る黒人を泥棒扱いです。

序盤からの一連の場面からだけでも、南部と北部における黒人の立場の違いがよくわかりますね。
白人にとって黒人は虫けら同然の存在だった当時でも
ブルースで名を馳せたマ・レイニーの人気は絶大で、北部に暮らす白人音楽プロデューサーとてこれを無視できなくなっていた。
本心では完全に見下しているくせに、なんとかレコーディングを成功裏に収めたい白人と白人なんかにイニシアティブを握られてたまるもんかと虚勢を張るマ・レイニー。
双方の攻防が見ものです。

マを演じるのはヴィオラ・デイヴィス
ふくよかなボディは実際に増量したのか、ボディスーツか、はたまたCGかは知りませんけど、貫禄とすごみが凄い。
両刀使いらしいじっとりとした厭らしさを醸し出しつつ、母性も感じさせる演技の深さ。ブルースも見事に歌い、じっくり見ても本人とわからないヴィオラ・デイヴィスの作り込みは圧巻です。

f:id:puko3:20210407172411j:plain

ボーズマンが演じるのはレコーディングに参加するバンドのメンバー、レヴィー。

彼も軽くステップを踏み鼻歌を歌う、それだけでも音楽に通じたバンドマンと感じさせる演技。2016年にはすでに大腸がんに罹患し、がん治療の合間に映画に出ていたとのことで、本作の彼も頬がこけるほど痩せている。トランペットを吹くのも、感情をあらわに慟哭するのも、さぞ体力が要ったことでしょう。
「神などいない」とうそぶくさまに、病に冒されたボーズマン自身の無念を重ねずにはおれません。

タイトルのブラックボトムというのはマ・レイニーの歌うブルースの曲名ですが
歌の内容を把握してないので、ブラックボトムが黒いズボンという意味なのかどうかは分からないのだけど、破ったドアの外の、レヴィーがいる壁に囲まれた空間こそが黒い底「ブラックボトム」じゃないかと、ダブルミーニングを思い、泣けました。

原作はオーガスト・ウィルソンによる戯曲。
役者陣のうまさもさることながら、黒人差別の歴史やブルースの音楽変遷も見せてくれる興味深い一編です。