しまんちゅシネマ

映画ノート

潜水服は蝶の夢を見る


2007年(フランス/アメリカ)監督:ジュリアン・シュナーベル原作:ジャン=ドミニク・ボビー『潜水服は蝶の夢を見る』(講談社刊)出演:マチュー・アマルリックエマニュエル・セニエマリ=ジョゼ・クローズアンヌ・コンシニパトリック・シェネ ニエル・アレストリュプ/オラツ・ロペス・ヘルメンディア/マックス・フォン・シドー【ストーリー】雑誌ELLEの名編集長として人生を謳歌していたジャン=ドミニク・ボビーは、42歳の時、突然脳梗塞で倒れてしまう。その後、病室で目覚めた彼は、身体全体の自由を奪われた“ロックト・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)”となっていた。それはまるで重い潜水服を着せられたような状態だった。意識は鮮明なのにそのことを伝える術がなかった。絶望にうちひしがれるジャン=ドミニクだったが、やがて言語療法士アンリエットらの協力で左目の瞬きでコミュニケーションをとる方法を獲得する。そしてある日、彼は自伝を書こうと決意するのだった。
■感想
最近、映画賞で必ずタイトルを目にするようになりましたね。

ELLEの元編集長ジャン=ドミニク・ボビーが、左目の瞬きだけで綴った奇跡の自伝ベストセラーを映画化したものです。

42歳にして、突然の脳梗塞で身体の自由を奪われてしまったジャン=ドミニク・ボビー。
彼に残された身体機能は、唯一左目の瞼を動かすことだけ。。。

序盤、昏睡から覚醒した主人公ボビーの目線で物語が始まります。
その視界に入り込むものを、彼の視線で捉えた映像に最初戸惑うのですが、
この序盤で、ボビーが自分の身体をもう動かせない(閉じ込め症候群というのだそうです)ということを知り絶望する過程、身体を動かせないもどかしさを、観ているものも体験することになるのです。

「死にたい」くらいショックですよね。それでも彼はある次点から悲観的になるのを止めるのです。
もちろん楽天的というのではないけれど、彼はリアルな存在として生きるんですよね。
しっかりエッチ心もあったりして、そりゃそうですよね。42歳だもの。

彼の日常は苦痛に満ちてるはずなのに、その表現は、笑っちゃっていいかしら?と思いながらもつい笑ってしまうくらいシニカルかつユーモアに溢れています。
人間どんな時もユーモアは大切。そんなことまで教えてくれるのですから凄い!

有名雑誌の名編集長で、仕事もプライベートも脂が乗り切った時に襲いかかった突然の病気。
動かない身体は、まるで重い潜水服を着せられて、海に沈んでいるようなもの‥。
劇中、なんども現れる海中の映像に、彼のもどかしさが投影されます。



そんなボビーを救ったのはコミュニュケ―ションの手段があったこと。
使用頻度別に並べられたアルファベットが言語療法士によって読み上げられ、
左目の瞬きにより選ばれた文字を並べて文字にする‥。
でもね、人間誰でもそんなにずっと目を開けていられるわけではなく、自然に瞬きするわけですよ。
「あー、これ以上目開けてられないよー。」でパチッ。そしたらその文字を読み取られちゃう。違うってばー!になるのね。
この過程もユーモラスに描かれてるんだけど、ものすごい根気を要することですよね。

それでも彼は、この方法で自伝を書くことを決心するのだから凄い!20万回の瞬きによって綴られたのがこの原作です。
それこそ気が遠くなるような作業だったでしょうね。彼のウィンクを読み取り執筆を助けた人の根気にも頭が下がります。

表現する術を得たことは、彼に生きる力を与えたに違いありません。
身体は動かないけれど、イマジネーションを働かせることで、その精神は蝶のように軽やかに、そして自由に飛び回り
世界を旅し、ロマンスを繰り広げる。。その映像の対比も面白いものでした。

本の中に登場するのは、彼の愛した人やものたち。ユーモラスに、詩的に。少しの自責の念を交えながら‥。


監督は「夜がくるまえに」のジュリアン・シュナーベル
主演のボビーを演じたのはマチュー・アマルリック。左目だけで演技することってかなり大変だったでしょうね。
彼は「ミュンヘン」にも出演していましたが、撮影、役者共にスピルバーグの映画を助けるスタッフだそうです。

父親役にマックス・フォン・シドー。彼には泣かされました。

エンドロールで、軽快な音楽が一転し、ゆっくりとしたメロディが流れ始めた時、、切なさが込み上げてきました。


ただ、冒頭のボビーの視線によるカメラワークは、酔いそうでちょっと辛かった。
正直もう止めて欲しいなぁと思っちゃったし(汗)
フランス語の作品なので、字幕を読むのもかなり大変で長い文章は最後まで行き着かないことも(笑)

DVDでゆっくり観直さなくっちゃ。トホホ。


ゴールデン・グローブで監督賞、外国語映画賞を受賞
その他、多くの映画賞でノミネートされてますね。アカデミー賞にどう絡んでくるでしょう。

★★★★☆