しまんちゅシネマ

映画ノート

Ballast(原題)

毎年アカデミー賞授賞式の前日に発表されるインディペンデント・スピリット賞
今年もアカデミー賞に合わせて3月5日に発表されます。
インディ系とは言え、最近ではオスカー候補になるような作品も多く選出されますね。
ただ、サンダンス映画祭しかり、ここで絶賛された作品でも日本では公開はおろか
DVDにもならずに終わってしまう作品が多いのは残念なところ。

先日Kaz.さん「埋もれる名編」として、日本公開映画のエンタメ化傾向を危惧する記事を書かれてました。
背景には単館系劇場の経営危機があるのだけど、このままでは日本では、商業的なエンタメ作品しか上映されず世界の映画祭で話題になる小粒な名作など誰も知らない。。なんて事態になるのではと心配になります。

視聴者は待つしかないのだけど、まずは、観たいという意識を持ち、
働きかけることも大事なのかしらと思うのですね。
だけどどんな作品かも分からなければ、求めることもできないわけで、、
ならば、視聴できる土地にいる私たちが情報を発信することも必要ではないかと思った次第。

所詮小さなブログごときで、無力なのは百も承知。
でも「ゼロ」よりはいいか、ということで、話題のものは極力観て記事にしますので
お付き合いいただければと思います。ヨロシクね~。

前置きが長くなりましたが、今日は昨年のサンダンスで監督賞受賞
インディペンデント・スピリット賞で『レイチェルの結婚』『フローズン・リバー』と並ぶ6部門にノミネートを果たした『Ballast』です。



2008年(米)
監督・脚本:ランス・ハマー
出演:マイケル・J・スミス・ジュニア/タラ・リグス/ジミーロン・ロス
ミシシッピーの田舎町。
コンビニを経営する双子の黒人兄弟のもとを、隣人が訪ねる。
数日間店が閉まったままなのを心配したのだ。

家には異臭が漂い、双子の兄はベッドで死んでいた。
弟のローレンスは一人ソファーに座っていたが、
無言で外に出ると隣室でピストル自殺を図る。。

なんともショッキングなシーンから始まり、いきなり度肝を抜かれます。

ローレンスは命をとりとめ帰宅。
帰宅後まもないローレンスに銃を突きつけ金を要求する12歳の少年ジェームス。
少年は死んだ双子の兄の子供だったが、両親の離婚で悪友に染まり麻薬に手を出していた。

麻薬、うつ、離婚、貧困、自殺
辛すぎる現実が次々に押し寄せる。

双子の兄弟を自殺で失ったローレンス。
父親に愛されてなかったと思い、その怒りを叔父に向ける少年。
息子の幸せを望みながらも、貧しさにがんじがらめになる母親。
憎まなくてもいいのに憎まざるを得ない、誰もがあまりに不幸で悲しい。

だけど物語が進むにつれ、彼らは少しづつ互いを支え始める。
悲しみを抱えた人間が、それでも絆を求めて支えあう。

タイトルのBallastを辞書で調べると(精神的・道徳的・政治的状態などを)安定させるもの, 落ち着かせるもの.と説明されてました。

そう、これは悲しみを抱えた人たちが互いに支えあうお話なのです。

ローレンスが元気になるまで犬を預かり、夕食に誘う、
一人暮らしの初老の隣人の優しさも心にしみた。犬もまた人を癒す。

静かに静かに、、四角い心が少しずつ丸みを帯び始める。
彼らの再生に希望の光を見るラスト数秒の奇跡。瞬きしてると見逃すかも(笑)

間違いなく低予算! だけどロットントマトでも88%と高評価。
辛さと優しさを実感できる作品でした。

★★★★☆