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映画ノート

クローンは故郷をめざす

 
クローン技術が進んだ近未来を舞台に、
クローン人間として生まれ変わった主人公の魂の彷徨を描くSF作品です。
クローンは故郷をめざす(2008)日本
監督:中嶋莞爾
出演:及川光博石田えり永作博美嶋田久作品川徹

 
■感想
幼い頃に双子の弟を不慮の事故で亡くしてしまった宇宙飛行士の高原耕平(及川光博)は
今また、最愛の母も病で失おうとしている。
そんなとき、高原自身が宇宙で作業中に殉職。
生前の契約に従い、彼はクローンとして蘇った・・・
クローン人間はオリジナルの記憶をそのまま持って再生されるはず
ところが、クローンミッチーを支配していたのは、幼い頃に弟を亡くした記憶
彼は病院を抜け出し、記憶の中の故郷をめざす。
 
        ***************
 
弟を亡くした悲しみと自責の念から
故郷を記憶の片隅に押し込めていた主人公が
クローンとなって、引き寄せられるように故郷へと向かう
台詞を極力省いたその憧憬が美しく、なぜかキュンとします。
 
双子であっても、弟の代わりにはなりえない
ましてやクローンが人の代わりにはなりえないといった
倫理的なところを謳った映画かもしれません。
SF映画らしく、クローン開発に携わる企業のエゴが描かれてもいます。
 
でも、やっぱりこの映画の核は 望郷 でしょうか。
失われたものだからこそ、懐かしく 手を伸ばして触れたくなる
そんなふるさと。
 
クローンが合法化される近未来を描きながら
映画に登場する故郷は昭和のかほりがします。
母 石田えりの雰囲気とも重なり、とてものどかで温かい。
ご覧になる多くの方が、自分の故郷と重ね合わせるのではないかしら。
 
映画に父親の姿が全く出てこないのは
クローンと双子を重ね合わせるためかな
 
あと、ひとつ分かりにくいと思ったのが
「オリジナルの魂がクローンに共鳴する」というもの
 
ありきたりな「クローンの葛藤」に終わらせず
一人の人間の望郷をより強く描くために必要だったのかなぁ。
私の理解が追いついていないだけかもだけど、
これ要らないような気がする。怖いし(^-^;)
一度の鑑賞で分かりにくいところでもあると思いました。
 
 
ヴィム・ベンダース製作総指揮ということもあってか
とても静かで どこか悠久を感じさせる美しさがあります。
宇宙へ向かう時代になっても、私たちの心は故郷にある
そんな感じはタルコフスキーの『惑星ソラリス』を思い出しますね。
切ないけれど 不思議に穏やかな気持ちになる作品でした。