しまんちゅシネマ

映画ノート

マーティン・シーン『地獄の逃避行』

 
さてさて、そろそろ今月の特集を始めますね。
オスカーを騒がせそうなイイ男ってことだったけど
インディペンデント・スピリット賞など、インディーズ系の賞もひっくるめさせてね。
ということで、今日は『The Way』で素晴らしい演技を見せてくれたマーティン・シーン
主演男優賞ノミネートの期待をかけ、トップバッターを飾ってもらいましょう
彼の主演作からテレンス・マリック(『ツリー・オブ・ライフ』)初監督作品、『地獄の逃避行』です。
 
地獄の逃避行 (1973) アメリ
監督:テレンス・マリック
出演:マーティン・シーンシシー・スペイセクウォーレン・オーツ/ラモン・ビエリ
アラン・ヴィント/ゲイリー・リトルジョン
 
サウス・ダコタ
ゴミ収集作業員である25歳のキット(マーティン・シーン)は、
15歳のホリー(シシー・スペック)と出会いデートを重ねるようになる。
しかし、二人の交際を知ったホリーの父親(ウォーレン・オーツ)は激怒。
出入りを禁じられたキットは父親を射殺し、ホリーとともに逃亡するが・・
 
58年にネブラスカで起きた連続殺事件「スタークウェザー=フューゲート事件」を元にした作品です。
事件の首謀者スタークウェザーがジェームスディーンを模倣したように
マーティン・シーン演じるキットもディーンを意識した、やや不良性を帯びた青年なんですね。
ホリーにはやさしく振舞う一方で
集中力を欠き、無慈悲で残虐性のある一面も垣間みせます。
 
ホリーが父親を殺されながらも、キットと逃亡するのは不思議にも思えるのだけど
キャリーなシシー・スペック演じる15歳のホリーにとって
ジェームス・ディーン似のキットが自分を好きになってくれている
それが全てだったかもしれません。
 
二人の逃避行は、ままごとの延長のようでもあり、
森に基地を築き、隠れ暮らす様子は懐かしさに似た郷愁さえも帯びている。
そこに挿入される音楽も崇高なまでに美しく、
音楽の種類はまるで違うのだけど、なぜか私は『ブロークバック・マウンテン』を観た時のような
心地よさに浸ってしまったんだよね~。
でもその心地よさと相反するのが
まるでアリでも殺すかのように、なんの躊躇もなく人を殺すキットの残虐さ。
 
 
どこまでも続く赤茶けた大地、こんなだだっ広い中で、
誰も彼らを見つけられはしないだろうという錯覚にも陥るけど、そうはいかない。
逃亡の終わりはスリリングです。
 
 
 
 
映像に定評のあるマリック監督らしく、小動物や夕日など
田舎の自然の描写の美しさも印象的。
短絡的で飄々としていながら、どこか捨て身な危うさを見せるマーティン・シーン
15歳なのに(実際にはシシーは23歳!)クールで、次第に逃亡に疲れていくシシーと
二人の好演も光ります。
青春ロードムービー風でもあり、なぜか心に残る好きな作品でした。
 
ちなみにキットらが立ち寄る金持ちの家に訪ねてくる男を演じているのが、マリック監督ご本人。
雇った役者が現れなかったための代役で、後にそのシーンを撮り直すつもりだったらしいですが
マーティン・シーンがそのままで行こうぜと提案したのだとか♪