しまんちゅシネマ

映画ノート

『脱出』苦い後味を残すサバイバル映画の秀作

今日は究極のサバイバル映画ということで、本作をチョイス。
冒険心を楽しもうと山間の川下りに挑んだ男たちが、思いがけない事態に遭遇し、
危険からの脱出に命をかけることになるサスペンス・アドベンチャー
ジェームズ・ディッキーの原作をジョン・ブアマンが監督しました。



脱出

1972年(アメリカ)
原題:Deliverance
監督:ジョン・ブアマン
出演:ジョン・ヴォイトバート・レイノルズ、ロニー・コックス
ネッド・ヴィーティ、ビル・マッキーニー

ダム建設によって消えてしまう前に川下りをしようと
田舎の渓谷にやってきた都会の4人組が
地元住民とのトラブルから、とんでもない危険にさらされるという話です。

いわゆる「田舎に行ったら襲われた」系の作品ですが、
巨乳ギャルが逃げ惑う『テキサスチェーンソウ』の類と違うのは
4人組のムサい顔ぶれを見ればおわかりでしょう。





「俺が男だ」風のバート・レイノルズは弓まで持ってる(汗)
これが良かったのか悪かったのか、
地元の山男ヒルビリーに襲われ、思わず反撃に出た彼らは
ヒルビリーの恨みを買い、執拗に追われることとなる。

そこからは、こんな物騒なところ早く逃げ出せ~っていう
脱出アドベンチャーになるわけです。
しかし、この映画の面白いのはそれだけにとどまらない。
それぞれに知性も良識もあり、無教養で野蛮なヒルビリーたちと
対照的に描かれていたはずの都会人たちが
危機に瀕すや、ヒルビリー以上の暴力性を露にする。
さらには全ての隠蔽を図るなど、利己的な手段に出るわけですから、
本当に怖いのはどっちだって話。
この映画でヒルビリーと呼ばれる人たちのことを垣間見ることができますね。
まず立ち寄った給油所でロニー・コックスのギターとセッションを見せるバンジョー少年。
彼らが演奏する「デュエリング・バンジョー」も素晴らしく、映画の見所の一つですが、この少年、風貌からどうやら精神障害がある様子。
さらに民家を覗けば、枯れたばあちゃんと、やはり障害のありそうな女の子。
おそらくは近親者による結婚により、障害児が多く生まれているのでしょう。
また若い女性の姿など一切見なかったように、
この村では男たちは女に不自由しているのかもしれない。
まぁ、それが事件のきっかけにもなっていくんですけどね。
これが映画デビューとなるネッド・ヴィーティのお気の毒な姿には・・
すみません、笑いますw

川下りの様子は迫力で、手に汗握るシーンの連続。
予算を抑えるため、出演者には保険もかけられてなかったそうで
ジョン・ヴォイトの崖のぼりもスタントなし。
バート・レイノルズに至っては、急流を下る際に尾てい骨を骨折したらしく
一番活躍するだろう思われた彼が、後半は足を骨折し、ただ寝てるだけという役割。
最後の脱出シーンでは、カヌーで大人しく気絶してなきゃいけなかったでしょうに
痛みを訴えギャーギャー騒いでましたよ。いやはやお気の毒。

閉鎖的な田舎の歪んだ恐ろしさを感じると同時に
人間の弱さや醜さも知ることになる本作は
単なるサバイバル映画と一味違う後味を残す傑作です。

旧ブログ記事に加筆しています。

★★★★☆