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映画ノート

【映画】『サード・パーソン』知的で巧妙!



サード・パーソン(2013)アメリ
原題:Third Person
監督:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソンミラ・クニスエイドリアン・ブロディオリヴィア・ワイルドジェームズ・フランコ/ モラン・アティアス
日本公開:2014/6/20
Kaz.さんのところで紹介されていたポール・ハギス監督の最新作『サード・パーソン』を観ました!




主人公はリーアム・ニーソン演じるピュリッツァー賞作家のマイケル
マイケルはパリのホテルに滞在し執筆活動中ですが、そこに愛人のアンナ(オリヴィア・ワイルド)がやってきます。



場面変わって
NYでは、元女優のジュリア(ミラ・クニス)が別れた夫リック(ジェームズ・フランコ)と息子の養育権をめぐり争っている様子。離婚弁護士マリア・ベロ
さらにローマのとあるバーでは、エイドリアン・ブロディ演じるスコットとエキゾチックな美女モニカ(モラン・アティアス)との出会いが描かれます。



次第にわかってくるのは、彼らが「子供」というキーワードで繋がっているということ。
しかし異なる都市が舞台なこともあり、今回は袖触れ合うような交錯はないのだろうと思い始める頃
それは突然やってくる。



えっと・・
ミラ・クニスはニューヨークにいるんだよね???

と、混乱することになるんですな。

しかしそれも散りばめられたヒントのおかげで、「あー、そういうことか」と納得。
監督らしい知的で巧妙な構成にうなることになりました。
どういうことかというのは後で述べるとして・・

この構成に気づいた段階で、おりゃー!という気になるんですが
監督の押しポイントはそこだけじゃないはず。

で、映画の本質について語りたいんですけど、その構成に触れずには語れないので
以下半分ネタバレしています。未見の方はスルーでお願いしますね。



まずは構成のトリックについて
ご覧になった方はお気づきだと思いますが、ミラ/フランコと エイドリアン/バーの女性の二つのエピソードは主人公マイケルの小説の中の出来事だと思います。

そう思う理由は、
まず、フランコ君が息子に話した台詞を直後にマイケルが小説の原稿としてタイプしていること。
先にも述べたように、NYにいるはずのミラ・クニスがパリのマイケルの部屋をハウスキーピングにやってくるところは先にも述べたように「どういうこと??」
いや、ありえない。つまりこれは現実でないということになりますよね。

マイケルやマイケルのエージェントの台詞からも分かるように、マイケルは自分自身を小説の登場人物に投影するタイプの小説家。彼は小説の中のミラやエイドリアンやフランコ君を通して、自身の苦しみを描き出しているということになります。

後から気づいたんですが、マイケルがフランコ君の台詞をタイプするシーンや、プールに飛び込んだマリア・ベロが消えてしまうというシーンはトレーラーにも収録されているんですね。
ということは、監督ははじめから「この映画にはちょっとしたトリックがあるよ」と注意を喚起しているんだと思います。(日本向けのトレーラーにはなかったかもだけど・・)

マリア・ベロだけでなく最後にはフランコ君も消え、エイドリアンカップルもドライブ中の道から姿を消す。
彼らが実在しないというのはまず決定的として、オリヴィアのパートも時間軸としては過去のことであり、小説に描かれたことかもしれない。

ポール・ハギスはマイケル役にリーアムを切望し、スケジュールが開くのを根気強く待ったのだとか。
リーアムは最近では『フライト・ゲーム』で犯人かヒーローかと観客を惑わす役を演じてましたが、誠実な役が似合う反面、意外な悪役もこなしてしまうところがトリッキーな本作でも生きてます。

この映画の主人公マイケルも、最後の最後でちょっと驚く行動に出るんですよね。
でね、普通であれば「作家のエゴ」で片付けられるのかもしれないところ、リーアムさんが切ない顔で演じると、その行動の裏には愛があるのではないか?と思ってしまうんだよねぇ。
過ちに対し言い訳していたのでは前に進めないと気づいた彼は、自分の再起をかけると同時に
アンナにも人生に向き合って欲しいと願ったのではないか、と。
でもね、一方で思うのは、これはマイケルの復讐かもしれないということ。

角度を変えれば、ひとつの物体も違った姿形を見せるように
人間も、人間の行動も、一つの側面だけでは語れない複雑さがあるのだとうなってしまう。
好きなシーンは、エイドリアン・ブロディとモラン・アティアスがベッドで足元から求め合うシーン。
二人は、危険を冒すことで新しい人生が開けることもあると教えてくれた。

役者のちょっとした表情からもさまざまな思いを読むことができる こういうの好き。
緻密に練られた脚本と演出のうまさを感じる作品でした。
映画三本観た気分だよ(笑)