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映画ノート

<span itemprop="headline">【映画】汚(けが)れなき祈り</span>



汚(けが)れなき祈り(2012)ルーマニア
原題:Dupa dealuri
監督:クリスティアン・ムンジウ
映画.comデータ

あらすじ
ドイツに出稼ぎに行っていたアリーナは、同じ孤児院で育ったヴォイキツァに会うため故郷のルーマニアに戻ってくる。しかし、修道院で暮らし、信仰に目覚めたヴォイキツァとは、以前のように心が通わなくなり、アリーナは精神のバランスを崩していく・・

トレーラー

汚れなき祈り [DVD]









感想 
4ヶ月、3週と2日』でパルムドール賞を受賞したルーマニアクリスティアン・ムンジウの監督作品。2005年にルーマニア修道院で実際に起きた「悪魔祓いの儀式による悲劇」を題材にしたドラマです。

4ヶ月、3週と2日』は友人の堕胎に付き合うことになったルームメイトの一日を描くドラマでした。チャウシェスク政権下で禁じられている堕胎を闇の業者に依頼するというのは勿論のこと、秘密警察の存在など、独裁政権下の国事情が得たいの知れない緊張を生む作品でしたね。

今回舞台となる2005年はチャウシェスク政権崩壊から16年経っているわけですが、主人公たちが生まれたのはまだ前政権の時代。堕胎や離婚を制限したおかげで人口は増えたものの、貧しさや育児放棄で孤児が増えたという、思わぬ煽りを食らっていて、アリーナとヴォイキツァも孤児院の出身。そのことが、映画の悲劇に大きく関係しているんですよね。




まずはアリーナの孤独。
彼女は里子に貰われたあとドイツに働きに出るも、社会になじめず故郷に戻ってきます。
里親の元ではなく、ヴォイキツァの暮らす修道院に身を寄せるあたりにも、里親との折り合いの悪さがうかがえます。
アリーナの望みはヴォイキツァと暮らすこと。この二人がもしかして恋人同士だったのかなというムードを漂わせ何気に怪しい(笑)

ところが、ヴォイキ(・・面倒くさいので以下ヴォイちゃんで(笑))、ヴォイちゃんは神父の言葉に従い修道院に留まると言うものだから、アリーナは心を乱していくことになるんですね。
おまけに修道女たちは、宗教心のないアリーナを「邪悪なもの」扱い。

この映画が怖いのは、精神のバランスを壊したアリーナが「悪魔憑き」とみなされること。
聖教者たちはアリーナの心の平安を取り戻すために「悪魔祓い」を実施する。
そうして悲劇が起きるわけです。



ルーマニアの悪魔祓いの話など、私たちの日常からかけ離れた話に見えて、実はそうともいえない怖さがあります。
修道女たちが宗教心のないアリーナをはなからよそ者扱いし、自分たちの価値観を植えつけようとする一方で異端なアリーナを恐れ、挙句排除しようとする。身近な学校や社会でも似た様なことは起きていてるわけで、決して特別の国の特別な話ではないのです。

貧困、孤独、マインドコントロール、ヒステリー、思い込み、無責任な医者の処方、里親のシステム等、事件を取り巻く複雑な背景をきちんと盛り込んだ脚本も秀逸。
刑事事件であるため、実刑判決を受けたものもいるけれど、個人ではなく国の仕組みを憎む姿勢に作り手の思いを感じます。不穏な緊張感を持続させるのも監督らしいところですね。

アリーナを演じた片桐はいり似のクリスティナ・フルトゥルはお顔の怖さも手伝って異様さを漂わせますが、本当は心のよりどころが欲しかっただけだよねとも感じさせる繊細な演技が秀逸。
ヴォイちゃん役のコスミナ・ストラタンと一緒にカンヌ女優賞を獲得しています。