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映画ノート

【映画】華やかな情事

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【作品情報】
華やかな情事(1968)アメリカ/イギリス
原題:Petulia
監督:リチャード・レスター
脚本:ローレンス・B・マーカス
出演:ジョージ・C・スコットジュリー・クリスティリチャード・チェンバレン、シャーリー・ナイト、ジョセフ・コットン

【感想】
あるパーティの席で医師アーチー(ジョージ・C・スコット)を見かけたぺチュリア(ジュリー・クリスティ)は、同伴の夫を無視し、アーチーをアバンチュールに誘い会場をあとにする。
ところが、その後向かったモーテルでは何もなし。
しかし、アーチーの手に触れた瞬間ぺチュリアは涙を流すのだった。

リチャード・レスター監督ジュリー・クリスティ主演のドラマです。
日本ではDVD化されてない作品で、映画サイトの解説ではかなりダメな作品のように説明されていて(allcinema)、しかもあらすじ(kinenote)さえ的外れ。
実は物凄く繊細で好きな作品だったので、ここでは映画の名誉のため、ネタバレ込みで擁護します。

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一見不思議ちゃんで掴みどころのない尻軽女に見えるぺチュリアだけど、彼女がアーチーに声をかけたのは、面識があったから。
時々挟まれるフラッシュバックで分かるように、彼女はメキシコ旅行中、車に乗り込んできた少年オリヴァーと旅を共にする。そのオリヴァーが事故に遭い、手術を担当したのがアーチーだった。
手術の様子をガラス越しに見ながらぺチュリアはアーチーの美しい手に心を奪われていたのだ。

アーチーの手がぺチュリアに触れると、彼女は魔法を解かれたかのように素の表情を見せる。
そんなぺチュリアにアーチーは惹かれていった。

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サイトの解説では「ぺチュリアは結局夫の情熱を取り戻したいだけ」みたいに言われているけどそこは違うと思う。
ぺチュリアは暴力夫から逃げ出したい。本当はアーチーに連れ去って欲しいと思ってる。
でもアーチーの迷惑になることを怖れ、それができないんですよね。

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映画で鮮明には語られないけれど、夫デイヴィッド(リチャード・チェンバレン)がオリヴァーに異常な愛情を持っていることは明らかで、おそらくはオリヴァーに性的暴行を加えたのでしょう。
デイヴィッドには富豪の親という後ろ盾がある。いかにも田舎ものの成金であることは家の装飾からも覗えるところだけど、ジョセフ・コットン演じるデイヴィッドの父親はデイヴィッド以上に怖い存在で、ぺチュリアはこの親子から逃れることはとても出来ない。そこが悲しいのですよ。
ジグソーパズルのようなポスターにも、そんなぺチュリアの儚さを感じます。

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オリヴァーを預けた移民家族の暮らす集落や、時々挟まれるバンドの演奏、駐車場で繰り広げられるマフィアとの取引など、リチャード・レスターはところどころに60年代らしい時代背景を覗かせています。
そんな一見無意味に思える演出から推察するに、本作は単なる家庭内暴力に悩むぺチュリアの物語ではなく、成り上がり的な力に翻弄されがんじがらめになったアメリカの姿そのものを象徴してるかもしれないな。

なんにせよ「華やかな情事」なる邦題は的外れではないかと思うし、大手サイトの解説でダメ扱いされているのはとても残念に思います。
知的で深く、とてつもなく悲しいけど好きな作品です。

DVD化希望。