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映画ノート

【映画】異人たちとの夏

大林宣彦監督がお亡くなりになりました。
今日は追悼に『異人たちとの夏』を観たのでその感想を。

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異人たちとの夏(1988)


【あらすじと感想】
人気シナリオライターの原田英雄は妻子と別れ、マンションに一人暮らし。ある晩、若いケイという女性が飲みかけのシャンパンを手に部屋を訪ねてきたが原田は追い返す。数日後、原田は幼い頃に住んでいた浅草で、彼が12歳のときに交通事故死した両親に出会う。奇妙に思いながらも懐かしさから両親の元へ通い出す原田。彼はケイにも再会し身体を重ねるようになる。ケイは次第にやつれていく原田を心配するが・・。

 

山田太一原作の同名小説の映画化。
風間杜夫演じる主人公原田英雄が、生まれ育った赤坂で自分が12歳の時に死に別れた両親と再会し交流するという不思議な映画です。

片岡鶴太郎秋吉久美子の両人がチャキチャキの下町育ちな風情で登場する。
驚くことに二人は死んだ英雄の両親で、44歳にもなった息子をまるで小学生にするように世話を焼くのが可笑しい。初めは戸惑っていた英雄もやがて12歳の少年に戻ったかのように、無邪気に両親と過ごす夏を謳歌する。
彼らの間に時間の隔たりは消え、当時の親子の姿に戻っているのだ。

大林監督はデビュー作『HOUSE ハウス』でも戦争で引き裂かれた恋人同士の霊を登場させているように、幽霊映画を何本か作っていることで知られているが、本作もその一つだ。
しかし、けっしておどろおどろしいホラーではない。
なぜなら英雄が出会うオバケは懐かしい両親であり、彼らと出会って温かみに触れることで、英雄は失われた子供時代を取り戻し柔らかい人間へと変わっていく。

しかし英雄にしろ、このまま会い続けていいものかわからない。
途中からどんどんやつれいていく英雄に、観る者も一抹の不安を覚えるのだが・・
最後になって、両親が現れた理由を知ることになる。

私は今回、大林監督のメッセージとともにこの映画を観ることができて幸せだった。
監督は「人は誰でもいつか死ぬが、誰かが覚えている限りその人はこの世にいる。自分の両親ももう死んでいないけれど目を閉じればここに(頭の隣に)いる。そういう気配の中で僕たちは生きている。
親は子供より早く死ぬものだが、だからといっていなくなるのではなく、だからこそ永遠の命をもって見守ってくれている。」と優しさの偲ばれる柔和なお顔とお声で仰っている。本作はまさにその永遠の愛と見守りを描いた映画だった。

亡くなった親や先祖が守ってくれるという考えは私たちの中に浸透している。私たちはどこかで死者と繋がっていて、お盆は次元の(住む世界の違う)死者と交わる限られた時間であると観念的に信じてもいて、そんな日本人特有の死生観も、この映画の不思議を穏やかに受け入れられる理由だろう。


お亡くなりになったのは悲しいけれど
大林監督を知る人の多くは、作品を通し永遠に監督と繋がっていけると知っているはず。

監督のご冥福をお祈りします。


映画データ
製作年:1988年
製作国:日本
監督:大林宣彦
脚本:市川森一
出演:風間杜夫片岡鶴太郎秋吉久美子名取裕子、永島敏行