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映画ノート

【映画】大いなる遺産(1998)

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大いなる遺産(1998)
Great Expectations

【あらすじと感想】
両親を亡くし、歳の離れた姉と暮らす少年フィンはある日海で脱獄犯を助ける。ディンズモア夫人の屋敷でエステラと出会い心惹かれていくフィンだったが、エステラはフィンに別れを告げることなくヨーロッパへ旅立った。エステラへの想いを封じ込め、絵もやめてしまったフィン。しかし大人になった彼の元にNYで個展を開かないかとの話が舞い込み・・。


チャールズ・ディケンズの同名小説をアルフォンソ・キュアロンが映画化した文芸ドラマです。主人公のフィンを演じるのはイーサン・ホーク
デ・ニーロ演じる脱走犯と出会うフロリダの海
エステラと過ごすディンズモア夫人の廃墟のような屋敷
画家としての夢を追い訪れるニューヨークと 
三つの異なる場所でストーリーが展開し、大人になったフィンが人生を回想するスタイルで描かれます。


出会ったその日から美しいエステラに惹かれるフィンですが、貧しい自分は彼女にふさわしくないとの劣等感から彼女に告白することもできない。目の前から突然エステラが消えたとしても受け入れるしかないフィンを、イーサンはナイーブに演じています。

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しかし、なぜエステラはフィンを翻弄するのか。
そのカギを握るのが結婚式の当日婚約者に逃げられ、心を砕かれたディンズモア夫人です。深いしわを刻む顔に舞台女優並みの化粧を施す夫人は、まるで魔女か魔法使い。彼女の悲しみがエステラに魔法をかけたともいえるわけで、その風貌も必然の演出なのでしょう。『卒業』のミセス・ロビンソンアン・バンクロフトを起用するところにも意味を感じるところ。自分のしたことの罪深さに気づくバンクロフトの悲しみの演技は秀逸。

夫人の呪いが2人を引き裂く一方で、フィンはエステラと再会を果たす
そこには呪いに抗う、もう一つの魔法が存在するがごとくで、天使と悪魔のせめぎあいを見るような面白味がありました。

タイトルは「大いなる遺産」
原題から直訳すれば大いなる期待ということになり、その期待とは、画家として成功し、エステラにふさわしい財力を得て愛を勝ち取ること でしょう。
「遺産」という訳から考えるならば、遺産とはフィンを画家としての成功に導いたものであったり、エステラとめぐり合わせてくれたものということになるかもしれません。
苦しみを伴う出会いや、恐ろしい出来事であっても、振り返れば人生の糧となる「遺産」となりえるものもありますね。

でも、私が思うに、フィンにとっての最大の遺産はクリス・クーパー演じるジョーだったのではないかしら。
恋人(フィンの姉)が男を作って去ったあとも、血のつながりのないフィンを愛情をもって育ててくれたジョー。ジョーがいてくれたからこそ、フィンは素直に育ち、幸せをつかむことができたのだと思う。

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フィンがニューヨークに旅立つとき、寂しさを紛らすために「飛行機の機種は何だ」と訊いてみたり、個展のオープニングにはフリルのドレスシャツに蝶ネクタイと、目いっぱいオシャレをして来てくれたり。
個展の会場で少してんぱってしまうジョーをフィンは邪魔者扱いするのに、貧しさを隠したいフィンの気持ちをちゃんとわかっていて、一人会場を後にする彼の寂しげな背中が忘れられません。
学はないけど心優しいジョーを演じたクリス・クーパーが好きすぎる。この作品で一番愛おしいキャラでした。

撮影はキュアロン監督と組んだ『ゼロ・グラビティ』(2013)から3年連続でアカデミー賞撮影賞を獲得するという快挙を成し遂げたエマニュエル・ルベツキ
緑色が印象的に使われる映像はどのシーンも瑞々しく、時に幻想的な雰囲気を醸し出します。エステラを演じるグウィネス・パルトローの美しさも特筆すべきものがありました。
これはこれからも何度も観るはず。本当に好きな作品でした。

46年製作のデヴィッド・リーン版も観てみたい。

映画データ
製作年:1998年
製作国:アメリ
監督:アルフォンソ・キュアロン
脚本:ミッチ・グレイザー
出演:イーサン・ホークグウィネス・パルトローハンク・アザリアクリス・クーパーロバート・デ・ニーロ