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映画ノート

『ミスティック・リバー』 全ては川に沈めて

もう一つイーストウッド監督作品を。
ミスティック・リバー』はマサチューセッツ出身の作家デニス・ルヘインの同名ミステリー小説を原作とするサスペンスドラマで、アカデミー賞ショーン・ペンの主演男優賞、ティム・ロビンス助演男優賞受賞を含む6部門にノミネートされるなど高い評価を得た一本です。

 

ミスティック・リバー(2003)

Mystic River

 

【あらすじ】

ボストン郊外で雑貨店を営むジミー、家族と平凡に暮らすデイヴ、州警察刑事のショーンの3人は少年時代を共に過ごした幼馴染。しかし11歳のとき一緒にいたデイヴだけが誘拐され性的暴行を受けるという事件が起き、以来3人は疎遠になっていた。25年経ったある日、ジミーの娘ケイティが遺体となって発見される。ショーンが事件を担当し、やがて事件当日の真夜中に、怪我を負って帰宅したデイヴが捜査線上に浮上する・・

 

【感想】
アメリカの家の周りを散策していると、下水用の側溝に誤って落ち込まないかと心配になったものです。それほど道路脇の下水口は怖い存在で、だからキングの『IT』で殺人ピエロが現れる場所に使われているのも納得してしまう。
本作でも少年らが最後のボールを側溝に落とすところから不穏な何かを感じずにいられず、実際、映画の中であの側溝は地獄への入り口みたいなものでした。
デイヴ(ティム・ロビンス)が連れ去られ性的暴行を受けてから25年。
かつての幼馴染ジミー(ショーン・ペン)、ショーン(ケヴィン・ベーコン)、デイヴの3人はそれぞれに家庭人になってはいるものの、もはや近い存在ではなくなっている。
しかし、ジミーの娘が何者かに殺されたことを機に3人の運命は再び動きだすわけですね。絡み合いながら。
オスカー受賞のショーン・ペンティム・ロビンスがやはり素晴らしい。
25年間、デイヴは「(連れ去られたのは)何故自分だったんだ」と思い続けたのでしょう。吸血鬼が人間であったことを忘れてしまったように、感情を空っぽにすることでかろうじて生きてきたデイヴ。
妻に過去を話すこともできないまま心の闇を暗い表情に押し込め、それでもなんとか前を向こうと思い始めた矢先、「あの日」が蘇る場面に出くわしてしまう。
偶然にもケイティ殺しと同じ時間帯に起きてしまうところに、神の悪意を感じずにはいられない。妻に真実を告げられずにいたことが更なる悲劇を生むやりきれない構図。
 
思えば全ての悪が因果応報というべく繋がっている。
後に明らかになる犯人が、ケイティをホッケーのスティックで殴打していたことにも25年前のあの日が蘇るわけで・・・
原点を辿れば全て25年前にいきついてしまうストーリーテリングが面白いと思う。
 
ボストンは原作者と同じくボストン出身のベンアフが『タウン』で描いていたように、やくざものが静かに息づく街でもあって、かつて犯罪に身を置いたジミーも裏社会との繋がりを持つ男。
ジミーの妻アナベス(ローラ・リニー)もジミー以上に裏社会との縁が深く、そこには彼らなりの生きざまがあるわけです。
 
ジミーと妻がパレードを見つめるラストシーンに賛否が分かれていますね。
ショーンは何故ジミーを逮捕せずにいるのか・・
もしかしたらこの後逮捕するか、もしくはジミーの自首を待つという可能性もあるだろうけれど、敢えて真実を闇に葬ることを選んだのだとすれば、それはジミーへの同情からではなく、街の平穏を保つためではないかしら。
真実はミスティック・リバーに飲み込ませる。
地元出身のショーンは、上司であるパワーズローレンス・フィッシュバーン)には理解できない街の掟を知っているのだという落とし方にも感じました。
 
ミスティック・リバー沿いに暮らす人間の生きざまと闇を、複雑に絡み合わせたミステリーが重厚にして物悲しい作品でした。