しまんちゅシネマ

映画ノート

鬼火

 
大映画祭特集 6本目
ホラー祭りの方と思ったでしょ。
ちょっとフェイントかましてみましたよ~w
 
今日からヴェネチア関連いきたいと思います。
まずは、自殺を決意した男の最後の48時間を描く、ルイ・マルの名作『鬼火』。
ヴェネチア映画祭審査員特別賞受賞作品です。
 
鬼火 (1963)フランス
監督:ルイ・マル
出演:モーリス・ロネ/ベルナール・ノエル/ジャンヌ・モロー/アレクサンドラ・スチュワルト

モーリス・ロネ演じる主人公のアランは、アルコール中毒で入院中の身。
医者からはもう退院してもよいと告げられるものの、アランの不安は募るばかり
「また酒に溺れ、バカなことをしでかすことは目に見えている。」
 
 
 
アランの部屋の壁には、妻の写真や、新聞の死亡記事の切り抜きが貼られ
鏡には7月23日の文字
その日付けの意味するところは・・・

自殺を決意した男の、最期の二日間を描くという本作、
音楽の使い方などにも『シングルマン』を思い出しました。
でも『シングルマン』では、主人公が「死」を主体的に準備する様子が描かれていたのに対し、
本作は何か受け身的なものを感じたのよね。
 
最期の一日、彼は旧友たちを訪ね歩くのだけど
もしかしたら、なにかが彼を死から救い上げてくれることに
微かな希望を抱いていたのではないか。
でも、結局はひたすら絶望を募らせるだけで、何も変わらない。
その様子が痛々しいのです。
 
 
 
ブルジョアで、文学的な才能にも恵まれながら
人を愛す術を知らず、それでも愛されたいと待ち望み
待ち疲れ、そんな自分を嫌悪するうちに、彼は酒に溺れていったんだろうなぁ。
 
世話になった職員に、自分の腕時計を外して渡したり、
時を告げている時計の針を進めたり
時間も 彼にとっては もう何の意味も成さないというのは切ない。
 
そして、最期の一日の過ごし方のオプションに、
“妻のもとに行き、一緒にすごす”というのがないのは寂しいよ。
 
文学を感じさせる、詩的な作品でした。